研究課題
若手研究(B)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は脊髄運動ニューロンの変性を伴った進行性の神経変性疾患である。その病態形成には小胞体ストレス、軸索輸送の異常、封入体の形成、グリア細胞の活性化など様々な現象が関与している。これまでにALSの早期病態形成時にはミクログリア上にケラタン硫酸(KS)が発現し始めること、抗炎症性ミクログリアマーカーが一過性に発現上昇することを明らかにし報告した。ミクログリア上に発現するケラタン硫酸プロテオグリカン(KSPG)の正体を明らかにするため、抗KS抗体カラムを用いたKSPGの精製とショットガンプロテオミクスによる分子同定を行った。平成25年10月に代表者の所属が変更になってからは、ALSの初期病変である軸索輸送傷害に着目し、軸索輸送傷害の薬理学的モデルを新たに導入した。この薬理学的モデルと従来から利用されている変異型SOD1G93Aトランスジェニックマウスを用い、ミクログリアやシナプス周辺環境の形態学的な解析を行った。その結果、軸索輸送傷害モデルにおけるこれらの形態は、ALSの早期病態形成期と高い類似性を示すことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
抗KS抗体カラムを用いたショットガンプロテオミクスでは、決定的なKSPGを同定することが出来なかった。これはコアタンパク質上に大量の糖鎖が結合しているせいであると予測された。そこで、脊髄由来RNAを用いたマイクロアレイ解析結果を元にGP200(仮名)に注目した。GP200に対する免疫染色・脊髄から分離されたミクログリアを用いたフローサイトメトリー解析を行った所、GP200はALS発症に伴ってミクログリア上で発現が亢進することが分かった。さらに、このタンパク質をKS合成酵素と共に培養細胞へ強発現させると、KSによる修飾を受け、ALS発症によって認められる脊髄組織内のKSPGと分子量が類似していることが分かった。一方で、軸索輸送傷害モデルのミクログリア形態やシナプス周辺環境は、変異型SOD1G93Aトランスジェニックマウスの早期病態形成期に類似していた。KSPG候補分子の同定、初期病変に着目した変化の解析など研究は概ね順調に進行していると考えられる。
神経変性疾患におけるニューロン-グリア連関については、多くの研究がおこなわれている。しかし、グリア細胞からのシグナルによって起こる神経細胞毒性を解明したものが多く、ニューロン内の異常がグリア細胞に与える影響を解析した研究例は少ない。軸索輸送傷害モデルによっておこるグリア細胞の活性化は、ニューロン内の異常を介して二次的におこるものであり、ニューロン-グリア連関を明らかにするためには適したモデルであると言える。そこで今後はグリア細胞の活性化を引き起こす分子実態を、初代培養細胞や共培養法を用いて明らかにする予定である。軸索輸送傷害を引き起こしたニューロンにおいて発現上昇する細胞表面分子や分泌タンパク質の実態を明らかにし、当該分子がアストロサイトやミクログリアの活性化を誘導するかどうか調べる。
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