研究課題/領域番号 |
25860242
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
市川 朝永 宮崎大学, 医学部, 助教 (80586230)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 癌 / シグナル伝達 / 成人病 |
研究概要 |
長期的な外的環境(炎症反応、感染、タバコ、アルコールなど)や内的要因(加齢、ストレスなど)の暴露よって体内の恒常性が破綻し心疾患、動脈硬化、糖尿病等の循環器疾患および腫瘍形成が惹起されることが知られている。生体内の恒常性を維持している因子の破綻がさまざまな疾患を誘導することが示唆され、これらの因子の破綻機構およびそれに伴う疾患発症機構の解析が予防、治療法の開発につながる可能性がある。 NDRG2(N-myc downstream regulating gene 2)は、mycにより発現低下する遺伝子NDRG1ファミリーとして同定された遺伝子である。数多くの固形がんで発現量が低下している。構造的にはHydrolase様ドメイン構造を持つものの酵素学的活性は見つかっていないため、詳しい機能は分かっていない。正常組織では脳、筋組織、心臓、肝臓などで高発現し、低酸素、ストレスなどで発現が調節されるストレス応答遺伝子である事も幾つか報告されている。 正常状態ではNDRG2は炎症反応のようなストレスによって自身の発現を増加させnegative-feedback的に過度なストレス反応を抑制する一方で、長期的な刺激により発現が減少し、抑制機構が破綻し病的状態に陥ることを示唆した。NDRG2は外的な刺激に対する防御機構を担っている一方で、長期的な刺激の暴露が発現低下をもたらし、ひいてはその発現低下がさなざまな疾患を発症する可能性が示唆された。これら一連の機構を解析することによってNDRG2の生体維持機構の解析およびその破綻による各種疾患の発症メカニズムが明らかになり、治療、予防法の開発につながると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NDRG2はAKT/PTEN情報伝達系ならびにNFκB炎症系を調節するがん抑制遺伝子であることが示唆されるが、詳しい分子機構については不明な点が多い。Mouse embryonic fibroblast (MEF)およびNDRG2を過剰発現/発現抑制させた細胞株を作製することにより、NDRG2の機能の解析を行った。 NDRG2は炎症反応を抑制する一方で、炎症反応やさまざまなストレスによって発現量が調節され、NDRG2発現量低下が生体防御機構の破綻を招き、ひいてはがん、心臓病などの成人病を引き起こすと推測される。またNDRG2は多くの腫瘍でプロモーターメチル化により発現低下が認められている。さまざまなストレスやウイルスがエピジェネティックな作用、例えばプロモーターメチル化を制御するDNMTs、ヒストン修飾を司るPolycomb系の発現量および活性を調節するが明らかになっている。そこで、NDRG2の発現量が変化するか、変化した場合どのようなメカニズムが働いているのか検討した。
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今後の研究の推進方策 |
我々はNDRG2欠損マウスが長期間飼育により、多臓器のがん、心肥大、耐糖能異常併せ持つ脂肪肝を示すことを明らかとした。さらにまさなざな刺激をNDRG2欠損マウスに付加することによってさらに詳しくNDRG2欠損によって惹起される疾患を解析する。 1)4-ニトロキノリンN-オキシド(4-Nitroquinoline N-oxido:4-NQO)を長期間投与することにより、マウスの口腔内に腫瘍が誘発され、AKT活性および炎症関連因子の上昇が知られている。そこでNDRG2 欠損マウスに同様の処理を行い、NDRG2欠損によって引き起こされるAKTおよび炎症反応がどのように発がん機構に作用するか検討する。 2)イソプロテレロール (Isoproterenol:ISO)はアドレナリン作動薬としてβ受容体に作用し、またアンジオテンシンII(Angiotensin II:AngII)はレニンーアンジオテンシン系に作用して動物モデルでは心肥大を引き起こす。心臓においてもAKT活性によってNFκB系が誘導され心筋の繊維化および心肥大に関与していることが示唆されている。そこでNDRG2欠損マウスにISOおよびAngIIを投与し、心臓でNDRG2の破綻によって引き起こされるAKTおよびNFκB活性上昇が病理的な状態でどのように作用するか検討する。 3)NDRG2欠損マウスでは加齢に伴い脂肪肝が見られた。高脂肪食下でNDRG2欠損によるAKT活性上昇がメタボリックシンドロームおよび糖尿病を引き起こすかどうか検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
概ね計画通りに進み、次年度に残こすため 動物使用および物品費
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