研究課題
若手研究(B)
平成25年度に実施した研究の主な成果としては、下記の二つが挙げられる。1. β4インテグリンに付加されたN結合型糖鎖の癌細胞増殖への影響:癌細胞の増殖におけるβ4インテグリン上N結合型糖鎖の寄与を調べるために、N結合型糖鎖欠損β4インテグリン発現細胞を用いた検討をおこなった。そのために野生型β4インテグリンおよびN結合型糖鎖欠損β4インテグリン発現ベクターをβ4インテグリン欠損ケラチノサイトに導入し、それらの発現細胞を樹立した。さらにそれら細胞に癌遺伝子RasおよびIκBを発現させることで癌化させた細胞株も樹立した。それら細胞表面のβ4インテグリンの発現量をFACSにより調べたところ、N結合型糖鎖の有無に関わらず同程度の発現であることが確認された。その一方、N結合型糖鎖欠損β4インテグリン発現細胞は野生型β4インテグリン発現細胞に比べ、細胞増殖能が有意に低下していた。これらの結果はβ4インテグリン上N結合型糖鎖が細胞の増殖になんらかの影響を及ぼしていることを示唆する結果である。2.癌におけるβ4インテグリン上N結合型糖鎖の同定:癌細胞と正常細胞のβ4インテグリン上N結合型糖鎖の糖鎖構造の違いについて検討をおこなった。細胞はヒトケラチノサイトおよび癌遺伝子RasおよびIκBで癌化させたケラチノサイトを用いた。それら細胞のβ4インテグリンを、抗β4インテグリン抗体を用いた免疫沈降により単離し、異なる糖鎖を認識するレクチンを用いたレクチンブロットにより、それぞれの細胞が発現しているβ4インテグリン上の糖鎖について解析をおこなった。その結果、癌化させたヒトケラチノサイトのβ4インテグリンにおいてL4-PHAレクチンの反応が高かった。このことはすなわち、細胞の癌化に伴いβ4インテグリン上にβ1,6GlcNAc糖鎖が増加したと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度において“β4インテグリン上N結合型糖鎖は癌細胞の細胞増殖へ影響を与えているのか”という本研究の根本的な疑問についてN結合型糖鎖欠損β4インテグリン発現細胞を用いて明らかにすることができた。また、癌化に伴い増加するβ4インテグリン上N結合型糖鎖についても同定できた。これらは申請書の研究計画どおりの進展である。したがって、現段階において研究はおおむね順調に進行しているといえる。
1、 β4インテグリン糖鎖による癌細胞増殖・生存シグナル活性化への影響(平成26年度)2、 β4インテグリン糖鎖による癌細胞アポトーシス回避メカニズム(平成26年度)3、 β4インテグリン糖鎖による腫瘍形成および主要増殖能への影響(平成27年度)について解析をおこなっていく。1については樹立した細胞株を用いて、β4インテグリン上N結合型糖鎖の有無による増殖や生存に関与するシグナルの変化をそれらに関与する分子に対する抗体を用いたimmunoblottingなどにより解析していく。2については癌細胞にアポトーシスを誘導する試薬であるTRAILを用いた研究をおこなう。予備実験において、野生型β4インテグリン発現細胞はTRAILに対してアポトーシス抵抗性を示した。一方、N結合型糖鎖欠損β4インテグリン発現細胞は同じ処理により細胞死が誘導された。このことはβ4インテグリン上N結合型糖鎖がTRAIL耐性に関与している可能性を示唆している。そこで癌細胞がβ4インテグリン上N結合型糖鎖により、どのようにTRAIL誘導アポトーシスシグナルを回避しているのかについて再度検証するとともに、更に詳しいメカニズムについて調べていく。3については野生型およびN結合型糖鎖欠損β4インテグリン発現癌細胞を免疫不全マウスの皮下に移植した癌モデルを用いて、in vitroで得られた結果をin vivoレベルで検証していく。
培養用試薬はうまくやりくりしたことで経費を抑えることができた。その一方で、計画を予定していたタンパク質解析の一部がおこなえなかったため備品や消耗品を購入しなかったことが原因である。今年度はタンパク質解析が必須なため、それらの経費として使用する予定である。特にimmunoblottingに使用する抗体や試薬の購入に充てる予定である。また、遺伝子発現ベクターを作製し、それらを導入した発現細胞を樹立する予定があるので、それらの経費としても使用する。
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J Biochem.
巻: 154 ページ: 229-232
10.1093/jb/mvt065.