研究課題/領域番号 |
25860248
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
梅田 香織 日本大学, 医学部, 助手 (10445744)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | LXR / 核内受容体 / マクロファージ / コレステロール代謝 / 炎症 |
研究概要 |
核内受容体LXRは体内でコレステロール恒常性を維持する転写因子であるが、近年マクロファージにおいて抗炎症因子として機能することが知られている。LXRは肝臓で高発現しているが、肝臓に恒常的に存在する免疫細胞での機能はまだ明らかではない。本研究では、肝臓免疫細胞におけるLXRの機能と脂質代謝との関連を調べるため、本年度は以下の検討を行った。 1、野生型、LXRα欠損、LXRβ欠損、LXRα/β欠損マウスの肝臓から非実質細胞をコラゲナーゼ消化及びパーコール分離によって単離し、細胞数とKupffer細胞、NK細胞、NKT細胞などの分布を比較したところ、LXRα/β欠損において全免疫細胞数が他の群と比べ明らかに増加しており、各免疫細胞の発現分布についても変化が認められた。 2、単離培養した野生型またはLXRα/β欠損マウス由来の肝臓免疫細胞をLPSまたはCpGで刺激したところ、LXRα/β欠損マウスにおいてLPS及びCpGによる炎症性サイトカイン産生量が野生型と比較し増加していた。 3、野生型及びLXRα欠損マウスに通常食または高コレステロール食を付加したところ、高コレステロール食付加2週間においてLXRα欠損マウスの肝臓免疫細胞は他群と比べ約10倍増加し、その大半が活性化マクロファージであった。高コレステロール食付加2週間では、野生型及びLXRα欠損マウスともに血中コレステロール濃度の上昇は認められなかったが、LXRα欠損マウスでのみ肝臓中へのコレステロールの蓄積及び肝臓免疫細胞内への明らかなコレステロールの蓄積が観察された。 本年度の結果から、肝臓においてLXR欠損マウスを用いた検討によって野生型マウスとの免疫細胞分布の相違、炎症反応に対する免疫細胞群の応答性の相違が観察されたことから、LXRは肝臓免疫細胞の機能及び維持に関与している可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画ではマウスにLPSやCpGを投与する急性肝障害または高脂肪及び高コレステロール食付加による慢性肝障害モデルマウスを構築し、LXRリガンドの投与による薬理効果またはLXR欠損マウスへの影響を検討する予定であった。しかし、LXR欠損マウスは、薬剤刺激を付加しなくても免疫細胞数や分布に明らかな違いを認めたことから、障害モデルマウスの検討に入る前にLXR欠損マウスにおける未刺激の免疫細胞について詳細に検討する必要があると考えた。その結果、LXR欠損マウスでは、Kupffer細胞やNK、NKT細胞の分布や各免疫細胞の活性化マーカーの発現パターンが野生型とは異なる表現型を見出すことができた。また、各免疫細胞のin vitro培養系を用いたサイトカイン産生能評価したところ、LPS、CpG刺激に対する反応性が向上し、ある種の炎症マーカーの発現を強力に誘導する効果が認められた。しかしながら、LXRアゴニストを前処理するとこれらの発現は抑制されたことから、LXRは肝臓免疫細胞において炎症抑制機構に関与することが認められた。以上の検討から得られた結果は今後in vivoの肝障害モデルマウスを用いた検討において参考となりうる有用な知見であると言える。次に、肝障害モデルマウスの構築の1つとして、LXRα欠損マウスを用いた高コレステロール食付加試験を実施した。LXRα欠損マウスに高コレステロール食を与えたところ、肝臓への顕著なコレステロール蓄積が認められるが、肝臓内に増加した免疫細胞の同定や脂質成分の解析を遂行することができ、実験計画はおおむね順調に遂行していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
肝臓免疫細胞におけるLXRの機能をさらに明らかにするため、本年度で得た結果を踏まえ引き続き肝障害モデルマウスを用いてin vivoの効果を検討する。 1、In vitro培養系での検討から、LPS、CpG処理によるサイトカイン発現がLXR活性化または不活性化によって変化を認めたことから、LPS、CpGをマウスに直接投与し、免疫細胞の発現分布または応答変化をin vivoで観察する。 2、本年度はLXRα欠損マウスを用いて高コレステロール付加の影響を検討したが、免疫細胞にはLXRβも発現しており、LXRαの機能を補助している可能性が示唆される。そこで、本年度はLXRα/β欠損マウスを用いて同様に検討し、野生型と比較する。 3、LXR欠損マウスのKupffer細胞やNK、NKT細胞は細胞分布に野生型マウスとの相違が観察されたことから、clodronate liposomeや抗NK1.1抗体を投与することで、それぞれの細胞を選択的に除去したマウスを作成し、上記1及び2の肝障害モデル実験を遂行する。 以上の検討により、一定の効果を認める結果が得られた場合、論文作成に着手する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度は主に細胞単離用のコラゲナーゼやパーコール、細胞培養用に用いる培地の購入、フローサイトメトリーによる細胞染色に用いる蛍光抗体の購入、プラスチック用品などの消耗品の購入に使用した。本年度の研究では、LXR欠損マウスにおいて肝臓免疫細胞分布が野生型マウスと異なっていたことから、LXRα欠損、LXRβ欠損マウスでの基礎的検討やin vitroでの刺激に対する応答などの詳細な検討を行ったことから、本年度は肝障害モデルマウスを用いたin vivoでの検討を開始するまでに時間を要した。そのため、肝障害を惹起する試薬やLXR合成リガンドの薬理効果を検討することができなかった為、これらのリガンド購入分を次年度に繰り越した。 次年度では、本年度同様に細胞単離用試薬などの試薬類または消耗品類の購入を行う。また、本年度に実施できなかった肝障害モデルにおけるLXRの影響を検討するため、主に動物実験の実施を予定している。そのため、物品費として野生型マウスや特殊飼料の購入、肝障害を惹起するLPS、CpG、α-ガラクトシルセラミドなどのリガンド類、LXRの薬理効果を調べるため、LXRの合成アゴニストであるT0901317の購入を予定している。本年度の繰越額はこれらの購入に補填する。さらに、これらの実験が進展した場合、免疫細胞の選択的除去を行う必要があるため、clodronate liposomeや抗NK1.1抗体の購入を予定している。
|