研究課題/領域番号 |
25860252
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
渡邊 征爾 名古屋大学, 環境医学研究所, 助教 (70633577)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / SOD1 / σ1受容体 / 小胞体・ミトコンドリア膜間領域 |
研究実績の概要 |
本年度の研究は、MAM特異的タンパク質であるσ1受容体(Sig1R)の欠損が変異SOD1マウスの病態に与える影響を中心に解析を行った。まず、Sig1R欠損(Sig1R(-/-))マウスと変異SOD1マウス(SOD1(G85R))を交配してダブルトランスジェニックマウスを作製した。作製したマウスの病態を観察した結果、Sig1Rを完全に欠損したSOD1(G85R)/Sig1R(-/-)マウスでは、野生型Sig1RをもつSOD1(G85R)マウスやヘテロで欠損したSOD1(G85R)/Sig1R(+/-)マウスと比較して、発症時期が有意に早期化して生存期間が短縮することを見出した。一方、Sig1Rを欠損したSig1R(-/-)マウスにおける運動機能の異常は認められず、少なくともマウスではSig1Rの機能喪失のみでは運動神経細胞の変性には十分でないことが示唆された。また、ALS患者由来の変異をもつSig1Rを生化学的に解析したところ、変異Sig1Rは細胞内で極めて不安定であり、イノシトール三リン酸受容体(IP3R)との相互作用も失われることが明らかとなった。更に、変異SOD1マウスの腰髄の運動神経細胞ではSig1Rが凝集し、IP3Rが局在異常を示すことも明らかにした。以上の知見とIP3Rが細胞内のカルシウムイオン濃度を制御する重要な分子であることを併せて考えると、MAMにおけるSig1Rの機能喪失は細胞内カルシウムイオン制御の異常を介して神経細胞の変性を促進していることが推測できる。今後、更に生化学的な検討を進め、どのような経路でカルシウムイオンの異常が神経細胞変性につながるのか、その機序を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、変異SOD1マウスとSig1R(-/-)マウスのダブルトランスジェニックマウスの解析やALS患者由来の変異をもつSig1Rの生化学的な解析から、Sig1Rの機能喪失がALSの病態を進行させることを明らかにした。更に、変異SOD1マウスにおいてIP3RやSig1Rの局在異常が明らかになったことで、昨年までに既に明らかにした変異SOD1のMAMへの蓄積と、それに伴うMAMの崩壊がSig1Rの機能喪失を介して、運動神経細胞の変性につながることが強く示唆された。以上のことから、本年度の成果は当初の研究計画において検討を予定していた内容をほぼ十分に満足すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Sig1Rの機能喪失が運動神経変性を引き起こす詳細な機序を明らかにするため、生化学的な検討を実施する。具体的には、カルシウムイオンにより活性が制御され、神経変性疾患への関与が示唆されているカルパインに着目し、カルパインの異常な活性化がSig1Rの機能喪失に伴って引き起こされるか検証する。また、MAMにおけるカルシウム制御はミトコンドリアでのアデノシン三リン酸(ATP)の合成に重要であることが指摘されており、Sig1Rの機能喪失によってATP合成量に影響が及ぶか検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物実験施設の改修等に伴って、一部の動物実験等の準備に時間を要したため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は計画通りに執行予定である。
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