研究実績の概要 |
未破裂および破裂脳動脈瘤の網羅的遺伝子発現解析を行うことで、脳動脈瘤破裂と関連する遺伝子を同定した。未破裂および破裂脳動脈瘤を用いた網羅的遺伝子発現解析での問題点は、脳動脈瘤サンプル間の不均一性である。例えば、サンプル収集時に未破裂であった瘤には、将来の破裂リスクが高いものもあれば、生涯未破裂のままである可能性が高い瘤もあり、生物学的状態が不均一であると考えられる。そこで、我々は次元縮小法の一つである非負値行列因子分解を用いて、破裂・未破裂脳動脈瘤検体を均一なサブセットに分類することで検出力を高め、破裂および未破裂脳動脈瘤の間で発現量に差のある遺伝子プロファイル同定を試みた。 結果として、破裂脳動脈瘤検体が発症時年齢によって若年と高齢患者で異なる遺伝子発現パターンを示すことを明らかにした。さらに、若年破裂脳動脈瘤は、破裂しやすい脳動脈瘤の分子特性を有していると考え、若年破裂と未破裂脳動脈瘤の遺伝子発現量を比較し、有意な差が認められる1,047遺伝子を同定した。同定した遺伝子群は、マクロファージを介した炎症性反応亢進が脳動脈瘤破裂と関連する分子特性であることを示唆するものであった。 同定した遺伝子群には、抗炎症に関わる転写因子であるKLFファミリー(KLF2, KLF12, KLF15)を始め、多数の転写因子が含まれていたため、これら転写因子が結合する認識部位をプロモータ領域に含む遺伝子を探索することで、脳動脈瘤破裂と関連する炎症性転写子群によって制御される階層的遺伝子発現ネットワークについて検討した。 本研究で同定された遺伝子群やネットワークは、血中バイオマーカーや治療標的分子探索に有益な情報をもたらすと考えられる。
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