研究実績の概要 |
【本研究の目的】 乳癌の代謝異常を解明することにより、従来鑑別困難であった病変の病理診断法の確立、および個別化治療のための新たな標的分子を探索することを目的とした。 【本年度の検討内容および研究成果】 1.アポクリン癌と非アポクリン癌の乳癌組織をもちい、免疫組織化学法(IHC法)によるPGC1α、p62発現検討と、RT-PCR法によるPGC1α、p62 mRNA発現量測定を行った。アポクリン癌は非アポクリン癌に対し、PGC1αの陽性率、mRNA発現量がともに有意に高かった結果より、乳腺アポクリン癌におけるミトコンドリアや脂肪滴の貯留には、PGC1α発現が関与する可能性が示された(IHC: p<0.01, mRNA: p<0.01)。また、アポクリン癌は非アポクリン癌に対し、p62の陽性率が有意に高かった一方、p62 mRNA発現量には差が見られなかった結果より、アポクリン癌におけるp62蛋白貯留が考えられ、アポクリン癌ではオートファジー不全が存在する可能性が示された(IHC: p<0.05, mRNA: p=0.63)。 2. さらにアポクリン化成細胞(良性)に対してIHC法によるPGC1α、p62発現を検索し、アポクリン癌との発現様式を比較した。アポクリン癌はアポクリン化生上皮に比べ、p62陽性率が有意に高かった(p<0.01)。この結果より、p62はアポクリン化生上皮とアポクリン癌の鑑別に有用である可能性が示された。 3. 乳腺アポクリン癌モデル培養細胞である、MDA-MB-453、MFM223をもちいたp62遺伝子のノックダウン実験を行い、BrdU法による細胞増殖能の評価を行った。p62 siRNA導入により、MDA-MB-453、MFM223におけるp62のmRNA、蛋白発現は抑制され、細胞増殖が有意に抑制された (MDA-MB-453: p<0.01, MFM223: p<0.05)。乳腺アポクリン癌培養細胞において、p62のノックダウンにより細胞増殖が抑制されたことより、p62はアポクリン癌細胞の治療標的となる可能性が示された。
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