研究課題
若手研究(B)
我々はこれまでにマウスの実験において、minichromosome maintenance (MCM) 2高発現細胞においてフレンド白血病ウイルス(FLV)のエンベロープタンパクであるgp70が存在すると、MCM2の核移行が阻害され、DNA損傷誘発アポトーシスを増強するという現象を見出した。本研究ではこの研究をさらに発展させて、ヒトの細胞において毒性のあるgp70の代わりに、MCM2に対する細胞内抗体を用いて同様の現象を再現し、MCM2の核移行を阻害することによる、新たな癌治療モデルの作製を目指し研究を開始した。まず、ファージディスプレイ法用いて抗MCM2抗体の分離をおこなった、MCM2の核移行シグナルペプチドを用いて特異的に結合するファージの分離に成功し、約50クローン程のMCM2に特異的なファージを分離することができた。次にファージより、抗体遺伝子をPCR法によって単離し、発現プラスミドに組み込み、HEK293、HeLa細胞に遺伝子導入した。さらに免疫沈降法を用いて、細胞内におけるMCM2と各抗体の結合能ならびにMCM2の細胞内局在を蛍光免疫染色にて確認した。その結果、分離した抗体は細胞内でMCM2と結合していた。またMCM2の細胞内局在は、クローンにより、本来のとおり核に局在するもの、細胞質に局在するもの、両方に存在するものなどさまざまであった。さらに細胞にこの抗体を発現させた時に、抗癌剤であるDoxorubicin処理でアポトーシスが増強するか確認した。その結果、ほとんどのクローンにおいて細胞内に抗体を発現させることでアポトーシスを増強することが可能であった。現在はこの細胞内抗MCM2抗体を直接細胞に導入するシステムを構築するために、Protein Transduction domain (PTD)であるHIV-1 Tat由来(GRKKRRQRRRPPQ)、ヒト転写因子Hph-1由来ペプチド(VARVRRRGPRR)を融合させた抗MCM2細胞内抗体を構築し、タンパク発現ベクターに組み込み発現の確認を行っている。
2: おおむね順調に進展している
ファージディスプレイにより分離した抗体が細胞内で特異的にMCM2と結合できることが確認でき、さらにこれのアポトーシス増強効果が確認できた。当初の予定ではこの抗体にProtein Transduction domain (PTD)を付加して細胞内に直接抗体を導入できるようにし、その有効性をin vitroにて確認するところまで進める予定であったが、ファージ抗体の単離に時間がかかったため予定より多少の遅れが生じてしまった。しかし全体的には計画に多少の遅れはあるがおおむね順調に進展していると思われる。
今後はこの抗体を直接細胞に導入するシステムを構築し、その効果をin vitroにて確認する。その後in vivoにおける細胞内抗体の治療効果を検討する。SCIDマウスにヒト由来の腫瘍細胞(Hela, A549など)またはマウス由来の腫瘍細胞(FM3A, T-Ag-MOSEなど)を移植する。2週間後、ある程度腫瘍が大きくなった時点で、作製したPTD付加MCM2抗体を投与する。投与経路についても皮下、静脈内、腹腔内、腫瘍に直接投与など様々な方法を検討する。抗体投与後、各時間において、マウスから腫瘍細胞を摘出し、細胞内抗体に対する免疫組織染色を施行して、腫瘍細胞における抗体の送達度合、抗体の組織内での保持安定性の検討を行う。これらの実験によってさらに選別された抗体について、同様に腫瘍を移植したマウスに抗体を投与し、さらに低線量の放射線照射、またはDoxorubicinをマウスに投与した後に、腫瘍を摘出し、TUNEL法を用いて腫瘍細胞におけるアポトーシス頻度の比較を行う。さらに、この治療を継続したときの腫瘍径の変化、生存日数の比較を行うことで治療効果の判定を行う。タンパクの投与量、投与間隔についても詳細に解析し、抗MCM2細胞内抗体による治療モデルを作製していく。
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