研究課題
若手研究(B)
腹膜中皮腫におけるTwist1の発現調節機構を検討するため、Twist1の上流の転写因子として報告されている3種類の転写因子を、鉄化合物誘発(Fe)・アスベスト誘発(Asbestos)・カーボンナノチューブ誘発(CNT)中皮腫のパラフィン包埋切片を用いて免疫染色を行った。CNT中皮腫のTissue-MicroArrayでは相関性が高い転写因子が見られたが、Fe, Asbestos中皮腫ではTwist1との発現に相関は見られなかった。発がん物質により異なるTwist1の発現誘導経路の存在が示唆された。ヒト腫瘍ではTwist1の発現は予後不良因子であると報告されているため、Twist1の発現とラット生存率、肉眼的な腫瘍形成量との関連をAsbestos、CNT中皮腫で検討したが、有意差は見られなかった。Twist1 により誘導される分子であるMDM2は、p53をユビキチン化して分解することにより細胞周期を亢進させる分子であるが、CNT中皮腫ではTwist1とMDM2発現に有意な相関が見られたが、Asbestos中皮腫では相関傾向に留まった。CNT中皮腫、Asbestos中皮腫におけるMDM2の発現と生存率を解析したが、有意差は見られなかった。細胞増殖マーカーであるKi67を、標識率50 % 以上を高発現、50%未満を低発現と定義して解析すると、CNT中皮腫ではTwist1とKi67高発現に有意な相関が見られたが、Asbestos中皮腫では相関傾向に留まった。Ki67高発現の生存率への影響の検討を行ったが、CNT中皮腫、Asbestos中皮腫では生存率に有意な差は見られなかった。Twist1/MDM2とKi67高発現に相関傾向を認めたため、Twist1は生体内でも中皮腫増殖作用を持つことが示唆されるが、腫瘍量と生存率に有意差が無いことから、限定的な影響に留まると考える。
3: やや遅れている
平成25年度ではTwist-1 の生体内での役割を明らかにするため、パラフィン包埋切片の免疫染色を中心に解析を行った。報告者の期待と異なり、鉄化合物やアスベスト誘発中皮腫では上流の転写因子は明らかではなく、アスベスト誘発、カーボンナノチューブ誘発中皮腫ではTwist-1 は生存率の短縮や腫瘍量と相関は見られなかった。平成26年度の研究目標に挙げていた、①中皮腫におけるMDM2発現の有無と、中皮細胞におけるTwist-1/MDM2シグナル伝達経路の評価、②Twist-1活性化機序の検討を前倒しで行った。しかし、平成25年度に施行予定であったマイクロサテライト解析、培養中皮細胞を用いたシグナル伝達経路の解析、培養細胞にmiR-199/214を導入することによる標的蛋白の同定は為されていない。
miR-199/214は細胞増殖促進効果が見られたが、発現調節を受ける蛋白の同定に至っていない。そのため平成26年度は、標的蛋白の同定と研究成果を論文にまとめることを第一の方策とする。マイクロサテライト解析を行うためのプライマー設計の下調べは行っているので、レーザーマイクロダイセクションによるマイクロサテライト解析を行う。Twist-1をコードするプラスミドを遺伝子導入することにより、中皮細胞でのTwist-1/miR-199/214経路の検討を行う。
平成25年度は現在までに得られているデータの掘下げ解析を主体に行った事により、消耗品を購入する実験を行うことが少なかったため、未使用額が生じた。培養細胞にmiR発現ベクターを導入して研究を行うため、遺伝子導入試薬、miRの抽出試薬、遺伝子発現定量試薬が必要になり、変動する蛋白を同定するため抗体が必要である。また、レーザーマイクロダイセクション切片を用いたマイクロサテライト解析には、微量DNAを増幅する必要があるため、比較的高価なDNA合成酵素が必要となる。
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