研究実績の概要 |
悪性中皮腫はアスベスト曝露と疫学的に相関があり、進行した状態で発見されることが多い予後不良な疾患である。本邦でのアスベストの商業利用は原則禁止であるものの、中皮腫の発症ピークは2025-2030年頃が推測されおり、今後も患者の増加が危惧されている疾患である。報告者は、鉄化合物誘発(Fe)ラット腹膜中皮腫検体から抽出したmicroRNA(miR)をマイクロアレイにより解析し、肉腫型中皮腫に特徴的なmiR-199/214を同定し、その転写因子であるTwist-1が肉腫型に高発現することを見出した。本研究費助成事業を受けることにより、研究室で作成したラット腹膜中皮腫の検体を用い、以下の研究成果を得ることが可能になった。Fe誘発、アスベスト誘発(Asbestos)、カーボンナノチューブ誘発(CNT)腹膜中皮腫検体のパラフィン包埋組織切片を用い、Twist-1, MDM2(Twist-1により誘導され、p53を不活化し細胞増殖作用がある), Ki67(細胞増殖マーカー) の免疫染色と、生存率に与える影響について解析を行った。Twist-1/MDM2発現と、Ki67標識率50%以上を高発現と定義してTwist-1/Ki67高発現の解析では、CNT中皮腫ではTwist-1/MDM2とKi67高発現に有意な相関が見られたが、Asbestos 中皮腫では相関関係に留まった。Twist-1は生体内で中皮腫増殖作用があることが示唆されるが、生存率に有意な影響が見られなかったことから、限定的な影響に留まると考える。また、Fe誘発中皮腫では組織鉄を介した酸化ストレスが重要であるとが考えられるため、活性酸素と関連があるp38MAPK, p42/44ERK, Akt 分子のリン酸化の有無を検討したが、肉腫型と上皮型の組織型により、活性化が異なるシグナル伝達経路は認めなかった。
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