研究課題
肺気腫は慢性閉塞性肺疾患の1つで、肺胞の破壊と拡張した気腔形成を特徴とする。原因の1つとして、局所の蛋白分解酵素活性上昇が考えられているが、肺胞上皮アポトーシスと結びつける分子機序は不明であった。IgCAM型の接着分子CADM1は、肺胞上皮の側方細胞膜に発現し、上皮細胞の極性の維持を司っている。CADM1の機能制御機構としてプロテアーゼによる細胞外領域の切断 (shedding) がある。肺組織を抗CADM1 C末抗体によるウエスタン法にて解析した所、全長型の100 kDaの他に、35 kDaと25 kDaの2つのバンド(β切断とα切断)が検出された。健常肺と肺気腫を比較したところ、肺気腫では全長型に対してshedding産物(βCTFとαCTF)の量が相対的に増加しており、CADM1 sheddingが亢進していることを見出した。肺組織切片をTUNEL法に供すると、健常肺ではほとんど全ての上皮細胞がTUNEL陰性であったが、肺気腫では10%以上の細胞がTUNEL陽性であった(P < 0.01)。CADM1 sheddingはTPA(ホルボールエステル)とトリプシン処理によって誘導される。肺胞上皮細胞株NCI-H441細胞において、CADM1 sheddingを惹起するとshedding産物であるαCTFがミトコンドリアに集積することを蛍光免疫染色によって明らかにした。またTUNEL法に供し、通常培養の細胞と比較すると、TUNEL陽性細胞の割合が約5倍増加した(P < 0.01)。以上の結果から、肺気腫ではCADM1 sheddingが亢進状態にあり、その結果過剰に産生される細胞内断片がミトコンドリアに集積して肺胞上皮のアポトーシスを促進している可能性が示唆された。
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