研究課題
若手研究(B)
三日熱マラリア原虫は系統進化学的研究から、マカクサル類を宿主とするサルマラリア原虫の宿主転換により生じたと考えられている。しかしながら、ヒトとマカクサル類に感染可能な近縁サルマラリア原虫とは異なり、三日熱マラリア原虫はヒトにしか感染せず、マカクサル類への感染能を失っている。この宿主特異性の違いを生み出している分子基盤を解明することを目的に、本年度は以下の項目を実施した。(1)組換えタンパク質の作製および解析:宿主特異性の違いを生み出していると考えられるサルマラリア原虫族のDBP(宿主赤血球侵入分子)と、その結合相手であるヒトおよびマカクサルのDuffy抗原(宿主赤血球表面分子)について、それぞれに異なるタグを付けた組換えタンパク質産生ベクターを作製した。ヒト培養細胞においてそれらベクターの発現とタグによる検出を行い、組換えタンパク質の産生とタグ特異的な検出が可能であることを確認した。(2)dbp遺伝子のゲノム上の位置の検証:本研究で取り扱うサルマラリア原虫のうち、dbp遺伝子のゲノム上の位置が不明な2種サルマラリア原虫(P. simiovaleとP. fieldi)について、宿主特異性の進化学的背景に資する情報を得るために、PCRによる検証を行った。その結果、2種サルマラリア原虫のdbp遺伝子は、ゲノム情報が既知のサルマラリア原虫種間でオーソロガスな関係にあるdbp遺伝子とは異なる位置にコードされていることが示唆された。(3)宿主特異性に関与するアミノ酸残基候補の抽出:サルマラリア原虫族の持つDBPのアミノ酸配列情報、および各サルマラリア原虫種の宿主域情報をもとに、宿主転換に関与する可能性が示唆されるDBP中のアミノ酸残基置換部位を絞り込み、候補を選定した。
2: おおむね順調に進展している
DBPおよびDuffy抗原の組換えタンパク質の発現と検出、および宿主特異性に関与するアミノ酸残基候補の選定を終え、当初の予定に沿い、進展しているため。
DBP組換えタンパク質を用い、結合試験を進める。1.作製したベクター内のdbp遺伝子由来DNAフラグメントについて、選定したアミノ酸残基部位をコードする塩基配列に網羅的に人為的変異を加え、変異型DBP組換えタンパク質を産生する。それらタンパク質を用いて組換えDuffy抗原との結合試験を行い、結合親和性の変化を起こすDBP中のアミノ酸残基を特定する。2.ヒトとマカクサル類の赤血球を用いた結合試験を行い、項目1で得られる知見と赤血球を用いた試験との間の整合性を確認する。
申請者の異動により、当該年度に予定していた機器用消耗品類の調達および旅行を次年度に変更する必要が生じたため。当初の計画に従い、結合試験に関連する細胞培養、組換えタンパク質の精製・検出、変異導入のための試薬類の購入に研究費の大半を充て、残りを論文作成・学会発表など成果報告のために使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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