赤血球内に寄生したマラリア原虫は、アミノ酸供給源としてヘモグロビンを利用する。しかし、マラリア原虫は赤血球侵入時に「寄生胞膜」に覆われた寄生胞を形成するため、寄生胞膜と原虫細胞膜を内側に陥入させたサイトストームから、ヘモグロビンを輸送小胞に取込み、食胞へと輸送する。これらの膜系は、1970年代に透過型電子顕微鏡を用いた形態学的解析により見出されたが、指標分子は同定されておらず、その分子機構は未だ明らかにされていない。今年度は、熱帯熱マラリア原虫の生殖母体期のヘモグロビン輸送の指標となる分子の同定を試みた。 これまでに申請者は、熱帯熱マラリア原虫のリング期から初期トロホゾイト期の寄生胞膜に発現するETRAMP4 (Early TRAnscribed Membrane Protein 4)が、サイトストームと輸送小胞に移行することを見出し、本分子がヘモグロビン輸送の指標となることを明らかにした。熱帯熱マラリア原虫のゲノムには、ETRAMP4のほかに13種類の相同遺伝子がコードされている。そこで今年度は、13種類のETRAMPファミリーを対象として、これらの発現時期および局在を明らかにするために、コムギ胚芽無細胞系を用いた組換えタンパク質を合成し、特異抗血清の作成を行った。さらに、間接蛍光抗体法により発現時期を解析したところ、ETRAMP10.3が生殖母体期に発現することを見出した。そこで、ETRAMP10.3に着目し、免疫電顕法を用いた詳細な分子局在の解析を行ったところ、本分子は生殖母体の寄生胞膜に発現し、サイトストームおよび輸送小胞に移行することが明らかとなった。生殖母体期に発現する分子は遺伝子改変が容易であることから、今後はETRAMP10.3遺伝子改変原虫を作成し、本分子のヘモグロビン輸送における役割を解析していく予定である。
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