本年度は黄色ブドウ球菌の自然形質転換に関して、1:コンピテンス装置(DNA取り込み装置)遺伝子の発現に必要なシグマ因子SigHが発現するための培養環境の解明、2:自然形質転換能に影響する化合物の検討、をすすめ、以下の成果を得た。 1 昨年度明らかにしたSigH発現に関わる二成分制御系を手がかりとして、コンピテンス装置の発現と機能に適した培養環境を解明した。従来SigHは最大で数パーセントの細胞で発現することが観察されていたが、新たに見出した培養環境では少なくとも数十パーセントの細胞がSigH活性を示し、また形質転換効率も大幅に上昇することがわかり、本菌の進化能力の重要な特質が明らかとなった。 2 SigHを人為的に強制発現させてもそれだけではコンピテンス能は現れないことから、なんらかの株特異的な要因、環境依存的な要因がコンピテンス能の発揮に必要であると考え、各種化合物の影響を調べた結果、細胞壁の代謝を阻害する幾つかの化合物・抗生物質が自然形質転換効率に影響することを明らかにした。しかしながら、例えば同じ細胞壁合成阻害剤でもその種類によって効果は異なることから、本菌の複雑なストレス応答が自然形質転換能を制御している可能性が示唆された。
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