研究課題/領域番号 |
25860314
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
高橋 梓 千葉大学, 真菌医学研究センター, 特任助教 (20607949)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アスペルギルス |
研究概要 |
真菌センターの保有するAspergillus fumigatus分離株44株を培養し、dsRNAを検出することによりマイコウイルスの検出を試みた。これまでに、農業分野に関係する植物病原糸状菌からはマイコウイルスが検出されてているが、ヒト病原糸状菌の病原性を抑制するマイコウイルスはこれまで見つかっていない。 昨年度申請者が新たに発見したマイコウイルス保有株4株のうち3株について、単胞子分離法を用いてマイコウイルスフリー株を作成した。マウスへの経気道感染実験を用いてウイルス保有株とウイルス保有株の病原性を比較したところ、マイコウイルスが宿主アスペルギルスの病原性を抑制していることを証明した。マウスの肺を詳しく観察したところ、感染3日目において既に両実験区には差が見られ、肺のパラフィン切片の観察結果から、マイコウイルスが宿主糸状菌アスペルギルス胞子の発芽を抑制していることが考えられた。 また、表現型の比較として、コロニー形態および生育速度、分生子形成数、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡を用いた形態観察、薬剤感受性試験、ストレス耐性試験を行った。その結果、ウイルス株ごとに差は見られたが、病原抑制効果のないウイルスでも顕著な生育抑制も見られた。病原抑制効果のあるウイルスでは、発芽抑制、菌糸の成長抑制などが観察された。 これらの結果については数回にわたり学会で発表し、2014年度には論文投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度の計画は、マイコウイルスによる病原抑制効果を証明し、病原抑制機構を解明するためにその詳細を観察すること、そしてそれをつかさどる遺伝子の推定を行うことであった。これまでに、動物実験を行い、マイコウイルスがアスペルギルスの病原を抑制している事を証明した。次に病理切片やin vitroの実験系により、マイコウイルスがアスペルギルスの生育を抑制している事を示した。一方で、次の病原抑制因子の探索の準備を行っている。次世代シークエンサーを用いてマイコウイルスのゲノムシークエンスを大まかに明らかにしてきたが、これらの配列について、PCRを行い、ノーザンブロッテイングにより確かにdsRNAバンドを構成する配列であることを示した。次にRACE法を用いてウイルスの全長を確認している。ここで得られた配列を宿主糸状菌アスペルギルスの中で発現させるため、現在プラスミドベクター構築を行っている。計画ではこの糸状菌内での発現までを平成25年度までに行うことになっているため、研究の目的の達成度にについて、「やや遅れている」と評価した。ゲノムシークエンスに予想以上に時間がかかったが、問題のある個所はおそらく解決したと思われるため、このまま実験を進めていけば、何らかの結果が得られることが期待される。ウイルスゲノムの宿主糸状菌内での発現確認に使用するペプチド抗体は、すでに作成してあるため、ウイルスゲノム発現糸状菌の作成ができれば、その後の確認もスムーズに行える予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、宿主糸状菌の中でウイルスゲノムを発現させるだけでなく、 invitro系において作成したウイルスタンパクやsiRNAを糸状菌の外部からかけた場合に病原抑制効果があるか、といった機能分子の探索も行う。効果のある分子の作用機構を詳しく調べることにより、薬剤化への利用を検討する。また一方で、ウイルス粒子に着目した研究も行う。現在、ウイルス粒子の精製方法を検討中である。ウイルス粒子が安定して精製できるようになったら、初めに、ウイルスが糸状菌の外部から感染可能かどうかを検討する。dsRNAマイコウイルスは糸状菌外部からの感染がないと言われているが、DNAマイコウイルスでは外部からの感染例があり、また、dsRNAマイコウイルスに比較的近縁な昆虫ウイルスでは細胞外からの感染が確認されている。ウイルスが外部から感染可能であれば、その利用方法は飛躍的に広がることが期待できる。しかし、ウイルスが外部から感染できないことがわかった場合には、ウイルスを感染させる方法、もしくは機能分子を薬剤として応用する方法を検討する必要がある。 ウイルスを外部から感染させるためには、現在いくつかのアイデアがあり、これらを検討したい。実際アスペルギルス症患者の治療をする場合には抗真菌薬との併用が考えられる。そこで細胞壁合成阻害の抗真菌薬を実際の投与濃度と同程度培養液に添加し、同時にマイコウイルスを培養することによりマイコウイルスの侵入を補助する。他の案としては、ウイルス外皮タンパクを改変することにより侵入を補助するというものである。これらの計画について本年度中に検討を始めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
想定より実験を進められなかったため 病原抑制因子の探索に関する研究について 供試回数を増やす
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