研究課題/領域番号 |
25860324
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 公益財団法人神奈川科学技術アカデミー |
研究代表者 |
千葉 紗由利 公益財団法人神奈川科学技術アカデミー, 実用化実証事業光触媒グループ, 特任研究員 (90528150)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 細菌感染 |
研究概要 |
百日咳菌は主に乳幼児に劇症型の呼吸器感染症である百日咳を引き起こす起因菌で、WHOの報告によると現在でも全世界で年間30万人の乳幼児が死亡している。百日咳菌のエフェクターの1つであるであるBopNは宿主のIL-10産生を亢進させて免疫応答を抑制する。抗炎症性サイトカインであるIL-10は、多くの感染症において宿主の過剰な炎症反応を抑制して症状の劇症化を防ぐが、細菌感染時にIL-10産生が誘導される機構の詳細は未だ不明である。またBopNが宿主のIL-10産生を誘導するには自身の61-120アミノ酸領域でimportin β1と結合して核内侵入を果たすことが必須であり、この領域を欠失するとIL-10の転写を促進できないことがわかっている。百日咳菌が宿主側因子をどのようにコントロールしてIL-10産生を誘導しているかを明らかにするため、平成25年度はBopNが核内移行する分子機序とBopNが関与するシグナル伝達経路に焦点を当てた解析をおこなった。培養細胞株を用いた実験の結果、61-120アミノ酸領域を欠失したBopNは、BopNによる宿主細胞内のNF-kB p50とNF-kB p60の局在変化を誘導できなかった。さらに、61-120アミノ酸領域BopNは、BopNによるERKのリン酸化も誘導できなかったが、p38のリン酸化には影響を与えることはなかった。BopNの宿主IL-10産生を誘導するにはBopNの核内移行が必須であるが、p38のリン酸化のようにBopNの核内移行とは直接関係がない現象もあることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度は、BopNが宿主細胞のIL-10産生亢進を誘導するメカニズムをin vitroを主として解析する計画であった。具体的には、1) BopNが核内移行する分子機序の解析、2) BopNが関与するシグナル伝達経路の解析の2つの計画である。本年度の研究結果としては、61-120アミノ酸領域を欠失したBopNが、本来BopNが誘導できる宿主細胞内のNF-kappaB p50とNF-kappaB p65の局在変化を誘導できなかったことや、ERKのリン酸化を誘導できなかったこと、さらにp38のリン酸化には影響を与えないことを見出した。このようにBopNが関与するタンパク質のリン酸化に対する解析の結果が出たこと、さらにBopNがNF-kappaBに与える影響について解析をおこない、その結果としてBopNの宿主IL-10産生を誘導するにはBopNの核内移行が必須であるが、p38のリン酸化のようにBopNの核内移行とは直接関係がない現象もあることが明らかとなった。これら結果から、本研究における平成25年度の計画のうち主たるについては達成したものと考えている。しかし、BopNと結合能を有するタンパク質の同定や、BopN自体の立体構造解析、またBopNが制御するMAPKのリン酸化およびキナーゼ活性の網羅的解析については準備段階であり現段階では結果が得られていないことから、本年度の自己点検による評価をやや遅れているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、in vitroにおいてBopNが関与するシグナル伝達経路の解析を行うとともに、百日咳菌のモデル菌株としてマウスに感染可能な気管支敗血症菌を使用してin vivoのマウスを用いた解析をおこなう予定である。具体的には、これまでにin vitroで解明した機序と同様の機序でin vivoのIL-10産生が行われているかを明らかにするために、マウスを用いた解析の焦点を、1)マウス肺細胞を用いた解析、2)感染マウスの解析、の2点に分ける予定である。肺細胞の解析では、マウスの肺から分離した樹状細胞およびマクロファージに野生株およびBopN欠損株を感染させ、細胞内のBopNや当該importin、NF-appaBの局在やMAPKなど細胞内シグナル伝達分子の発現を免疫蛍光染色およびウェスタンブロット法にて明らかにする。同時に細胞内および細胞上清中のIL-10量はRT-PCR法およびELISA法にて測定する。また感染マウスの解析では、野生菌株およびBopN欠損株に感染したマウス肺の凍結切片を用いて肺細胞と同様の免疫蛍光染色を行う。同時に感染マウス肺組織からtotal RNAを精製し、IL-10とともに関連するシグナル伝達分子の転写量の変化をRT-PCR法にて測定し、BopNによる影響も評価する。また平成25年度の計画としていた残りの研究であるBopNと結合能を有するタンパク質の同定、BopN自体の立体構造解析、またBopNが制御するMAPKのリン酸化およびキナーゼ活性の網羅的解析については、平成26年度末に本研究計画を完遂するために、in vivoの実験および平成26年度に実行予定であるin vitroの解析と平行して研究をおこなう予定としている。
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