百日咳菌は主に乳幼児に劇症型の呼吸器感染症である百日咳を引き起こす起因菌で、WHOの報告によると現在でも全世界で年間30万人の乳幼児が死亡している。百日咳菌のエフェクターの1つであるBopNは宿主のIL-10産生を亢進させて免疫応答を抑制する。抗炎症性サイトカインであるIL-10は、多くの感染症において宿主の過剰な炎症反応を抑制して症状の劇症化を防ぐが、細菌感染時にIL-10産生が誘導される機構の詳細は未だ不明である。本研究は百日咳菌が宿主側因子をどのように制御してIL-10産生を誘導するかを明らかにするため解析をおこなった。培養細胞株内でアミノ酸領域を一部欠失したBopNを発現させたところ、BopNがIL-10産生を誘導するには自身の61-120アミノ酸領域でimportin beta1と結合して核内侵入を果たすことが必須であり、この領域を欠失するとIL-10の転写を促進できなかった。さらに、61-120アミノ酸領域を欠失したBopNは、BopNによる宿主細胞内のNF-kappaB p50とNF-kappaB p65の局在変化を誘導できなかった。61-120アミノ酸領域BopNはBopNによるERKのリン酸化も誘導できなかったが、p38のリン酸化には影響を与えることはなかった。さらに気管支敗血症菌に感染したマウスの肺を解析したところ、野生株および他病原因子の欠失株では肺気管支上皮細胞上に菌体が存在していたが、BopN欠失株に感染したマウスではその存在が一切確認されなかった。また、Bop欠失株に感染したマウスの肺には著しい好酸球の浸潤が生じており、血清中からIL-5およびIgEも検出された。これよりBopNの宿主IL-10産生を誘導するにはBopNの核内移行が必須であり、核内移行によって感染時に生体の免疫応答を強く抑制状態へ移行させるものと考えられた。
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