研究課題/領域番号 |
25860327
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
妹尾 充敏 国立感染症研究所, その他部局等, 研究員 (20646624)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Clostridium difficile / 定着因子 |
研究概要 |
欧米では1980年代から医療関連感染の原因菌としてClostridium difficileに注目しているが、我が国においては、C. difficile感染症(CDI)の認知度は低く、多くの医療施設でCDI対策が行われていない。しかし、重症例では腸切除を行わなければならないことや死亡例の報告も稀ではないため、本菌の対策は急務であると考えられる。通常、CDI重症例ではバンコマイシンによる治療を行うが、治療後の再燃・再発が多いため、他の治療・予防法が必要とされている。本研究では予防法として、定着因子ワクチンを考えた。C. difficileは、抗菌薬等で腸内細菌叢が乱れたときに、菌が腸管に定着し、毒素を産生することで消化管症状を引き起こすため、腸管への定着を防ぐことはCDIを予防する効果的な方法であると考えられる。 本年度は、C. difficileの腸管細胞への付着を評価することのできるin vitro assay系の確立を行った。まず、ヒト腸管上皮細胞株Caco-2を用い、C. difficileのCaco-2への付着を効率よく検出することのできる方法の条件検討を行った。Suspension buffer, incubation time, incubation buffer, wash buffer, detach bufferなど様々な項目について検討し、条件の最適化を行った。次に、Caco-2とは異なるヒト腸管上皮細胞株HT-29への付着を調べ、HT-29においても同条件でC. difficileの付着が検出できることを確認した。また、C. difficileはPCR ribotypeによって型別されており、流行を起こす型がいくつか報告されているため、流行型株の付着について調べた。その結果、流行型株と非流行型株の統計学的有意差は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究計画では、①新規定着因子の探索、②定着因子の付着に関与するアミノ酸領域の決定、を行う予定であった。しかし、遺伝子欠損株が作成出来なかったため、Bacillus megateriumタンパク質発現システムを用いて、定着因子タンパク質の発現を試みたが、目的タンパク質を産生する株は得られなかった。次に、cold shock 発現ベクターと大腸菌を用いたが、この方法でも目的タンパク質の発現を確認することはできなかった。最終的に、in vitroタンパク質合成系を用いて、目的タンパク質を合成したが、合成量がごく僅かであり、その後の実験に使用するには多大な予算が必要と考えられたため、研究方針を変えることを余儀なくされた。 定着因子ワクチンの開発するためには、まず、ワクチンの効果を調べるためのassay系が必要であると考えられる。マウス等の実験動物を用いたin vivo assay系で評価することは3Rの理念から最小限にするべきであることから、C. difficileのヒト腸管上皮細胞への付着を評価することができるin vitro assay系を開発した。さらに、本研究で開発したin vitro assay系を用いて、C. difficileの流行型株と非流行型株の付着性の違いについて調べた。 本年度は研究方針を変える必要があったため、本来の研究計画の達成度は低いが、新しい研究計画においては、極めて順調であると考えている。今後は新しい研究計画に従い、C. difficile定着因子ワクチンの開発を行う。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画にあるC. difficile定着因子ワクチンを調製することは困難であるため、研究計画を変更した。まず、C. difficile定着因子ワクチンとして、nontoxigenic C. difficile膜画分を候補にする。C. difficileは、toxigenicとnontoxigenicが存在するが、消化管症状を引き起こすのはtoxigenic C. difficileのみである。膜画分の調製にtoxigenic C. difficileを用いた場合、膜画分に毒素が混入する可能性があるため、より安全性を高めるためnontoxigenic C. difficile膜画分を使用することとした。Nontoxigenic C. difficile膜画分をマウスに投与し、血清と腸液を回収する。そして、血清と腸液のnontoxigenic C. difficile膜画分に対する抗体価を測定する。抗体価の上昇が認められた場合、血清もしくは腸液をtoxigenic C. difficileと混合した後、保温し、本年度開発した付着のin vitro assay系を用いて、血清もしくは腸液がtoxigenic C. difficileの腸管細胞への付着を阻害するか否か調べる。一定の効果が認められた場合、マウスを用いたin vivo assay系を用いた評価を行う。 来年度は、nontoxigenic C. difficile膜画分をマウスに2週間ごとに計3回投与し、最後の投与から2週間後に血清と腸液を回収する。抗体価測定のためのELISAを構築し、抗体価を測定する。その後、付着のin vitro assay系による血清および腸液の効果を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験計画の変更により、当初の計画より次年度に使用する実験動物数が増えたため。 まずC. difficile膜画分の抗体を作成する。得られた抗体がC. difficileの付着を妨げる作用があるか否かを本年度に構築したin vitro assay系を用いて調べる。抗体の付着阻害能が確認された後、in vivo実験を行う。つまり、免疫マウスとコントロールマウスの腸管へのC. difficileの付着数の違いなどを計数する。
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