研究課題/領域番号 |
25860336
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
本田 知之 京都大学, ウイルス研究所, 助教 (80402676)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | RNAウイルス / DNA損傷 / 核 / 転写 / 複製 |
研究概要 |
宿主ゲノムDNAは、生命活動の中枢であり、遺伝情報の基盤である。ゲノムDNAは、常に様々な要因により損傷を受けている。その要因の一つに、ウイルス感染がある。ウイルス感染とDNA損傷については、がんウイルスを中心にDNAウイルスで活発に行われてきた。しかし、RNAウイルス感染におけるDNA損傷については、ほとんど研究が進んでいない。ボルナ病ウイルス(BDV)は、細胞核に持続感染するRNAウイルスである。核に持続的にウイルスが存在することで、宿主ゲノムにDNA損傷を引き起こしたり、逆にDNA修復機構(DNA damage response: DDR)を利用して持続感染している可能性が考えられる。そこで、本研究では、核内RNAウイルスのモデルとしてBDVを用いて、BDV感染におけるDNA損傷およびDDRの役割を明らかにすることを目的とする。本研究において、核内RNAウイルスと宿主DNA損傷の相互作用について以下の結果を得た。 1)BDV感染が感染細胞にDNA損傷を引き起こすか、コメットアッセイやDNA損傷マーカーであるリン酸化ヒストンH2AXの免疫染色、ウエスタンブロッティングにより解析した。その結果、BDV感染、非感染で細胞のDNA損傷の程度に差はなかった。このことから、BDVは感染細胞のゲノムに損傷を与えないか、与えても迅速に修復している可能性が考えられた。 2)逆に、DNA損傷時(UV照射、X線照射、過酸化水素添加)に、BDVの転写・複製効率の変化がないかリアルタイムRT-PCRなどを用いて検討した。その結果、BDVの転写・複製バランスが変化することが明らかとなった。このことから、BDVがDDRを利用して、自身の転写・複製バランスを制御する可能性が示唆された。 このように本研究は、核内RNAウイルスと宿主DNA損傷の相互作用について、おおむね順調な成果をあげることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究計画では、2つの小課題を提案していた。 1つは、BDVが宿主のDNA損傷およびDDRに与える影響の検討である。本年度の結果から、BDV感染細胞と非感染細胞では、DNA損傷の程度に変化はなかった。このことから、BDV感染のDNA毒性はあったとしても、その病態には関与していないことが考えられた。以上の通り、検討課題について一定の結論を得ることが出来、本小課題は計画通り進展していると考えられた。 もう1つは、逆に、宿主細胞のDNA損傷およびDDRがBDV感染に与える影響の検討である。本年度は、複数のDNA損傷刺激により、BDVの転写・複製バランスが変化することを見出した。このような宿主細胞のDDRとBDV感染の相互作用を見出せたことは、次年度の研究の基盤となる必須の知見である。以上のことより、本小課題についてもおおむね順調に進展していると判断した。 全体として、当初の計画より若干の変更点はあるが、大きな方向性に変化はなく、2つの小課題達成に向けて順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に得られた結果をもとにして、宿主DDRとBDV転写・複製バランスの制御についての作業仮説をたて、検証する。具体的には、 宿主DNA損傷およびDDRがBDVに与える影響の分子機構と、インフルエンザウイルスのような核に侵入するRNAウイルスや、核内で活動するレトロトランスポゾンなども、同様に宿主DNA損傷やDDRにより制御されるかの検討、の2つの小課題について進める。 1)宿主DNA損傷およびDDRがBDVに与える影響の分子機構:BDVの転写・複製バランスを制御するDDR因子を過剰発現やsiRNAによるノックダウンを用いて探索する。得られた分子とBDVのウイルス分子との相互作用を検討し、両者がどのように相互作用しているかを明らかにする。 2)インフルエンザウイルスやレトロトランスポゾンとDDRとの相互作用解析:BDV以外にも核内で活動するRNA分子は存在する。その代表例が、RNAウイルスであるインフルエンザウイルスや、レトロトランスポゾンである。1)で見出したDDR因子が、これらの生活環にも影響を与えるかを検討する。
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