宿主ゲノムDNAは、生命活動の中枢であり、遺伝情報の基盤である。ゲノムDNAは、常に様々な要因により損傷を受けている。その要因の一つに、ウイルス感染がある。ウイルス感染とDNA損傷については、がんウイルスを中心にDNAウイルスで活発に行われてきた。しかし、RNAウイルス感染におけるDNA損傷については、ほとんど研究が進んでいない。ボルナ病ウイルス(BDV)は、細胞核に持続感染するRNAウイルスである。核に持続的にウイルスが存在することで、宿主ゲノムにDNA損傷を引き起こしたり、逆にDNA修復機構(DNA damage response: DDR)を利用して持続感染している可能性が考えられる。そこで本研究では、核内RNAウイルス感染におけるDNA損傷およびDDRについて、BDVをモデルウイルスとして検討することを目的とした。本研究において、核内RNAウイルスと宿主DNA損傷の相互作用について以下の結果を得た。 (1)BDV感染は感染細胞で宿主DNA損傷を積極的に誘導はしないことが明らかとなった。(2)逆にDNA損傷誘導時には、持続感染しているBDVの転写・複製バランスが変化した。(3)阻害剤によるスクリーニングにより、この転写・複製バランスをDDRの特定の経路の因子が制御する可能性が示唆された。(4)BDVは核内にウイルスリボタンパク質複合体(RNP)による構造物(vSPOT)を形成する。生理条件下で、わずかに存在するDNA損傷部位にvSPOTが局在することが多いことを見出した。(5)得られた結果から、「生理条件下で存在するDNA損傷部位にvSPOTが形成され、DDR分子によりその転写・複製バランスが制御される」という仮説を提唱出来た。 このように本研究は、核内RNAウイルスと宿主DNA損傷の相互作用について、当初の予定以上の成果をあげることが出来た。
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