研究課題/領域番号 |
25860338
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
田中 智久 山梨大学, 医学工学総合研究部, 助教 (30585310)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ウイルス / コロナウイルス / 感染症 / RNA / 翻訳阻害 / RNA分解 / 病原性 |
研究概要 |
重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス(SARS-CoV)のnsp1タンパク質は、mRNAの急速な分解を引き起こすことにより宿主の遺伝子発現を強力に阻害することが知られているが、nsp1タンパク質によるmRNA分解の機序はまだ解明されていない。これまでの予備研究などからnsp1タンパク質自体にはRNA分解活性がないことが示唆されていたため、nsp1タンパク質と相互作用する何らかの宿主タンパク質がmRNA分解に関与していると仮定し、本研究課題では、質量分析法を用いてnsp1タンパク質と相互作用する宿主因子のスクリーニングを行った。その結果、有力な候補としてUPF1タンパク質が同定された。UPF1タンパク質は宿主mRNA監視機構の一つであるナンセンスRNA分解(ナンセンス変異を有するmRNAを発見し、分解する機構)において中心的な働きをするタンパク質である。このUPF1タンパク質や、同じくナンセンスRNA分解の必須因子であるSMG6タンパク質をsiRNAによりノックダウンしたところ、nsp1タンパク質によるmRNA分解が有意に阻害された。これらの結果から、nsp1タンパク質はUPF1タンパク質との相互作用を介し、ナンセンスRNA分解に関連する因子をmRNA上にリクルートすることで、宿主mRNAの急速な分解を引き起こしている可能性が考えられた。これまで、ウイルスの生存戦略として宿主のmRNA監視機構を利用する機序についての報告はなく、非常にユニークな現象と考えられる。今後、nsp1タンパク質依存性mRNA分解とナンセンスRNA分解の関連を詳細に調べなければならないが、本研究課題が達成されればmRNA分解を介したSARS-CoVの病原性発現のメカニズム解明につながるのみでなく、細胞生物学分野においても重要な知見となると予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の平成25年度の達成目標として、1)nsp1タンパク質によるmRNA切断に関与する宿主因子を同定すること、2)nsp1タンパク質によるmRNA分解の分子メカニズムを解明すること、の2点を計画した。本研究においてはnsp1タンパク質依存性mRNA分解に関与する宿主因子を同定するところまでが一番の難所であると予想していたが、ナンセンスRNA分解機構の必須因子の一つであるUPF1タンパク質とnsp1タンパク質の相互作用を実験的に確認できたことは平成25年度の大きな進捗の一つであると考えられる。また、siRNAを用いたノックダウンにより、UPF1タンパク質などのナンセンスRNA分解の必須因子がnsp1タンパク質によって引き起こされるmRNA分解に寄与していることが分かった。このことから、nsp1タンパク質存在下でのmRNAの急速な分解には、宿主のmRNA監視機構の一つであるナンセンスRNA分解が関係していることが示唆された。しかしながら、ナンセンスRNA分解は多段階的なシグナル伝達を介して厳密に制御されているため、nsp1タンパク質によるRNA分解の分子メカニズムの全体像を解明するためにはさらに詳細な検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度では、平成25年度に引き続き、nsp1タンパク質依存性mRNA分解の分子メカニズムを解明するため、ナンセンスRNA分解に関係する宿主因子をsiRNAなどを用いてノックダウンすることにより、nsp1タンパク質存在下でのmRNA分解が抑制されるかどうか調べる。また、本研究課題の平成26年度の計画では、SARS-CoVの病原性発現における宿主mRNA分解の意義を解明することを予定している。そのため、さまざまなnsp1タンパク質変異体を作製し、これら変異体とUPF1タンパク質の相互作用を調べることにより、nsp1タンパク質上のUPF1タンパク質結合部位を同定する。同定された結合部位に変異を導入したSARS-CoVレプリコンや感染性クローンを用いて、SARS-CoV感染におけるUPF1タンパク質、および宿主mRNA分解の意義について検討する予定である。これらの結果より、SARS-CoVの病原性因子としてのns1タンパク質の役割が解明されると考えられる。平成26年度の計画では、SARS-CoVのレプリコンや感染性ウイルスを用いた実験系が必要であるが、これらの実験をスムーズに開始できるよう、細胞培養の条件やコンストラクトを中心として十分な予備検討を行っており、平成25年度からの研究を継続しながらこれらの研究を進行させることができると考えている。
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