研究課題/領域番号 |
25860340
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
金井 祐太 大阪大学, 微生物病研究所, 特任講師(常勤) (80506501)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | レオウイルス / 癌 / イメージング / 治療 |
研究概要 |
哺乳類オルソレオウイルス(以下MRV)は様々な癌に対して優れた殺腫瘍活性を示すことから、腫瘍溶解性ウイルスとして、癌治療への医薬品応用が有望視されている。本研究は、MRVで応用が困難であったウイルス遺伝子改変技術を導入・駆使することで、より安全で治療効果の高い腫瘍溶解性ウイルスベクターの開発研究の基盤を目的とする。 我々はまず複数のMRV株の抗腫瘍活性を比較し、より腫瘍溶解能の強い株の選定を行った。腫瘍溶解性MRVとしてこれまで3型のT3D-C株が用いられてきたが、他のウイルス株の腫瘍溶解能については検討されていなかった。我々はT3D-C株の他に、T1L株、T3D-F株を用いて、培養癌細胞に対する腫瘍溶解性を比較したところ、T3D-C株が顕著に強い腫瘍溶解性を示した。T3D-C株はReolysinという名称で抗腫瘍剤としての開発が進められており、T3D-C株をベースにしたRG系の確立を試みた。MRVは10本鎖のdsRNAをゲノムとして保持しており、ウイルスRNAの両端にリンカー配列を付加し、UTRを含めたMRV T3Dcd株の全長クローニングを行った。各遺伝子分節をT7プロモーターの下流に結合し、3'端にはD型肝炎由来リボザイム配列を付加した。得られたプラスミドをT7 RNAポリメラーゼを発現するワクシニアウイルスを感染させたL929細胞にトランスフェクションし、感染性ウイルスを得ることに成功した。得られた組換えMRVは培養細胞において野生型MRVと同程度の増殖性を示した。また培養癌細胞株において、ウイルス感染時の生存率を調べたところ野生型とRG由来MRVにおいて同程度の腫瘍溶解性を示し、MRV T3D-C株のRG系の樹立に成功した。 樹立したRG系を用いて、MRV遺伝子にルシフェラーゼ遺伝子を挿入したところルシフェラーゼを発現するレポーターMRVの作成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、初年度の研究計画として1)抗腫瘍効果の高いMRV株の選定、2)RG系の樹立、3)組換えウイルスの作成を予定していた。 1) については3種のMRV株(T1L, T3D-F, T3D-C)を比較することで抗腫瘍活性の高いT3D-C株を同定した。計画当初はランダム変異導入や2株の同時感染による組換えウイルス作出を予定していたが、すでに抗がん剤として臨床試験が行われていたT3D-C株の顕著な腫瘍溶解能を確認できたため、それ以上の試みは現時点において必要ないと判断した。 2) については、T3D-C株よりクローニングした遺伝子分節を細胞に導入することで野生型と同じウイルスが得られ、RG系の樹立をすることができた。 3) については外来遺伝子としてルシフェラーゼを組み込んだ組換えウイルスが得られ、感染細胞においては基質の添加により発光がみとめられた。レオウイルスでは以前より100bp以上の外来遺伝子を持つ組換えウイルスの作成が困難だと考えられていたが、本研究では513bpのルシフェラーゼ遺伝子(NanoLuc)の挿入が確認され、今後は他の外来遺伝子の挿入も可能であると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度には腫瘍溶解性の高いレオウイルス(MRV) T3Dcd株のRG系を樹立し、ルシフェラーゼを発現する組換えMRVが得られたことから、次年度以降にはまず、1)ルシフェラーゼ発現レポーターMRVを用いた癌細胞の検出を行う。MRVは癌細胞のマウス移植モデルにおいて本来の感染部位である肺、腸管の他に癌細胞に特異的に感染することが知られている。我々の樹立したレポーターウイルスによりマウスモデルへの感染により、腫瘍組織への特異的な感染のライブイメージングができることが期待される。 2)またMRV以外の抗腫瘍ウイルスとして研究が進んでいるアデノウイルス、ヘルペスウイルス等では、GM-CSFなどのサイトカイン発現ウイルスを用いることでがん免疫と抗腫瘍効果の増強が確認されている。本研究でもがん免疫に効果があることが知られている種々のサイトカイン(GM-CSF、IL18、IFNβ等)を挿入した組換えMRVの作成を試みる。 3)組換えMRVとしてウイルス粒子の最外殻にあるカプシドタンパクであるsigma1タンパクを改変したMRVの作成を試みる。MRVの感染時には細胞表面レセプターであるJAM-A分子とMRVのsigma1分子が結合する。しかしながら、レオウイルス感染の場合、すべての細胞がJAM-Aを発現しているわけではないため、癌細胞の種類によってはレオウイルスが感染できないことが考えられる。ここではMRVのレセプター結合タンパクであるsigma1に他のレセプター結合配列を付加することによりJAM-Aに依存しない癌細胞への感染能の獲得を目的とする。RGDモチーフはアルギニン-グリシン-アスパラギン酸が並んだ配列で多くの細胞に発現するインテグリンと結合するが、MRVのsigma1にRGDモチーフを付加することで、JAM-Aを発現しない細胞においてもインテグリン依存性の感染が期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、以下に示すように、実験が順調に進み、いくつかの予定していた実験に関してはやる必要がなくなったため、予定した予算額よりも少ない額での実施が可能であった。 本年度の最初には3株のレオウイルス(MRV)を用いて癌細胞に対する腫瘍溶解能を検討した。当初はランダムな変異の導入や、異なる株同士のリアソータントウイルスを用いてより強い抗腫瘍活性を示すMRV株を探索する予定であったが、3株の比較によりMRV T3D-C株が他の株に比べ顕著に高い活性を示したため、当初の予定していた実験を中止し、T3D-C株を以後の実験に使用することにした。MRVのリバースジェネティクス系はMRVがゲノムとして10本鎖のdsRNAを持つことから構築が容易ではないことが知られていたが、1度目の試行でウイルスを得ることができたため、当初の予定より大幅に少ない予算で完遂することができた。 初年度は組換えウイルスの構築を主としていた。次年度以降は引き続き組換えウイルスの構築を行い、得られたウイルスを用いてin vitro, in vivoのがん細胞に対する抗腫瘍活性を測定する。また培養細胞での結果を踏まえてマウスを用いた動物実験を行う予定である。そのため次年度は細胞培養および動物実験関係を主な予算の使用目的とする。得られた結果については遺伝子解析等を行うため、生化学実験関係の予算を計上している。また得られた成果についての学会発表も予定しているため、旅費を計上する。
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