研究実績の概要 |
哺乳類オルソレオウイルス(以下MRV)は様々な癌に対して優れた殺腫瘍活性を示すことから、腫瘍溶解性ウイルスとして、癌治療への医薬品応用が有望視されている。本研究は、MRVで応用が困難であったウイルス遺伝子改変技術を導入・駆使することで、より安全で治療効果の高い腫瘍溶解性ウイルスベクターの開発研究の基盤を目的とした。 我々はまず複数のMRV株の抗腫瘍活性を比較し、より腫瘍溶解能の強い株の選定を行い、最も腫瘍溶解性の強かったT3D-C株をベースにした遺伝子操作系(RG系)の確立を試みた。T3D-C株の各遺伝子分節をプラスミドにクローニングし、L929細胞内でウイルス遺伝子の発現を行ったところ、感染性のあるT3D-C株を得ることが出来た。この人工遺伝子由来のT3D-C株はin vitro, in vivoにおいて野生型と同程度の抗腫瘍活性を示した。 次に外来遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子をMRVの遺伝子に挿入したところルシフェラーゼを発現するLuc_MRVが得られた。このLuc_MRVをマウスに経鼻感染したところ、感染部位(肺および腸管)に強いルシフェラーゼ活性が認められ、MRV感染の生体イメージングに成功した。さらにヒト癌細胞を移植した担癌マウスにLuc_MRVを静脈投与したところ癌部に限局した発光が認められ、腫瘍の生体イメージングに成功した。 次にT3D-C株を用いて癌細胞に対する感染性の向上を試みた。MRV外層タンパクであるSigmaCにインテグリン結合能を有するRGD配列を挿入した組換えMRVを作製したところ、一部の癌細胞において顕著な感染性の向上が認められた。特にMRV本来の受容体であるJAM-A分子の発現が低下している癌細胞において顕著な腫瘍溶解能の向上が認められた。
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