研究概要 |
研究実績の概要 センダイウイルス (SeV) Cタンパク質は, 宿主転写因子STAT1のN末端ドメイン (STAT1ND) に結合することで, インターフェロン (IFN) -alpha/betaおよびIFN-gammaによるシグナル伝達を阻害する。ただし, SeV感染後期になると, IFN-alpha/betaまたはIFN-gamma存在下で, 細胞内にリン酸化STAT1が蓄積する。本研究では, Cタンパク質がSTAT1およびSTAT2のリン酸化を阻害する機構を解明するとともに, SeV感染後期で細胞内にリン酸化STAT1が蓄積する理由を明らかにすることを目的としている。 本年度では, Cタンパク質とSTAT1NDの複合体構造を, X線結晶構造解析より明らかにすることを目指した。タンパク質結晶化予測プログラムやSTAT1NDを用いた免疫共沈降法の結果をもとに, N末端側98アミノ酸残基を欠失させたCタンパク質変異体 (Y3と命名) を用いて, STAT1NDとの複合体結晶を作製することに成功した。収集した回折強度を用いて, 複合体の三次元構造を2.0Å分解能で決定した。その成果として, 1分子のY3は, STAT1ND二量体のサブユニット間に結合し, STAT1ND二量体に対して2分子のY3が結合することが判明した。さらに,全長型STAT1の結晶構造と比較したところ,Y3はSTAT1NDに結合することで,STAT1におけるN 末ドメインとC末ドメインの間の相互作用を妨害することが示唆された。特に,二量体のSTAT1に1分子のY3が結合すると,STAT1はその脱リン酸化が促進される構造をとりやすくなり, 2分子のY3が結合すると, STAT1は脱リン酸化が阻害される構造を取りやすくなると予想された。ただし, 脱リン酸化が阻害されたY3結合型のSTAT1は, DNA結合型の構造には変換されないと推測される。
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今後の研究の推進方策 |
研究当初, Cタンパク質はオリゴマーを形成することで, IFNによるシグナル伝達を阻害すると予測していた。しかしながら, 免疫共沈降法の結果から, Cタンパク質は, 培養細胞内でオリゴマーを形成しないことが示された。結晶中においても, Y3は, 隣接するもうひとつのY3と相互作用をしていなかった。Cタンパク質は, オリゴマーを形成せずに, 単量体のままでIFNによるシグナル伝達を阻害していると推察される。今後は, 複合体構造より得られた知見をもとに, Cタンパク質によるIFNシグナル伝達阻害機構の解明を目指す。具体的に述べると, STAT1にCタンパク質が結合すると, 全体構造が特定の構造に変化すると考えられる。そこで, まず, 非リン酸化STAT1に対してCタンパク質を加え, X線小角散乱実験を実施する。得られた散乱曲線から, STAT1ホモダイマー中の各ドメイン間の相対的位置変化を観察する。また, Cタンパク質は, STAT1二量体に1分子結合すると, その脱リン酸化を促進し, 2分子結合すると, 脱リン酸化を阻害する可能性がある。これを調べるため, リン酸化STAT1を調製し, これにCタンパク質および脱リン酸化酵素を混ぜて, リン酸化STAT1の量がどのくらい変化するのかを経時的に観察する。解析は, ウェスタンブロット法により行い, リン酸化STAT1に対する抗体を用いて検出する。
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次年度の研究費の使用計画 |
IFN-alpha/betaの刺激によりリン酸化される前に, STAT2はSTAT1と弱く結合する。当初の研究計画では, Cタンパク質はSTAT2結合型とSTAT2非結合型のどちらのSTAT1と好んで結合するのかを, ゲルろ過クロマトグラフィー解析により調査する予定だった。しかしながら, STAT2のin vitro調製が困難であったことから, 本調査を断念した。これに係る物品費は, 次年度に持ち越した。 次年度に持ち越した助成金は, 次年度分として請求した助成金と合わせて, 本研究遂行のために使用する。
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