研究実績の概要 |
センダイウイルス (SeV) Cタンパク質は, 宿主転写因子STAT1のN末端ドメイン (STAT1ND) に結合し, インターフェロン(IFN) -α/βおよびIFN-γによるシグナル伝達を阻害する。本研究では, Cタンパク質のC末 (Y3と命名) とSTAT1NDの複合体構造を明らかにした。その成果として, 2分子のY3は, STAT1NDホモ二量体によって形成される2つの溝にそれぞれ結合することが判明した。全長STAT1の結晶構造と比較したところ, STAT1二量体に1分子のY3が結合すると, STAT1は, アンチパラレル型の構造に誘導され, その脱リン酸化が促進すると考えられる。その一方で, 2分子のY3が結合すると, パラレル型の構造に誘導され, 脱リン酸化が阻害される。SeVを細胞に感染させると, STAT1のリン酸化は阻害されるが, 感染後期では, リン酸化STAT1の蓄積が観察される。感染後期におけるCタンパク質の細胞内濃度は高いと予測されることから, STAT1は, パラレル型の構造に誘導され, 脱リン酸化が阻害されているのかもしれない。さらに, Y3は, リン酸化STAT1とγ-activated sequence (GAS) との結合を阻害せず, 転写を活性化させることが明らかになった。Y3存在下では, リン酸化STAT1は, 二量体間で四量体を形成し, DNAに結合していると推測される。Cタンパク質はSTAT1と高分子量重合体を形成し, STAT1の核移行を阻害するが, Y3はSTAT1と高分子量重合体を形成しにくい。このため, Cタンパク質に比べて, Y3ではIFN-γによるシグナル伝達を部分的にしか阻害することはできないと考えられる。すなわち, Cタンパク質によるIFN-γのシグナル伝達阻害において, STAT1と高分子量重合体を形成することが最も重要であると推測される。
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