研究実績の概要 |
高度の抗体抵抗性を示すサル免疫不全ウイルスSIVmac239に対しても中和抗体(NAb)を高率に誘導する初の持続感染サル群(n=9)を同定し、NAb非誘導群(n=17)と比較した感染免疫学的解析を行った。NAb誘導群の最も特徴的な性質は、病原性アクセサリー蛋白NefのN末端非構造リンカーにおけるG63E変異の高率な選択(7/9頭)であった。これはNef62-70特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)からの逃避変異であり、promiscuousに3種のMHCクラスIアリル(Mamu-B*039:01, Mamu-B*004:01等)に拘束されるものであった。アリル保有率で群間に差はない(p=0.42)一方変異体選択には顕著な差が認められた(p=0.0016)。 Nef G63E変異体ウイルスの感染動態解析を行った結果、複製能など基本的なウイルス学的性状に特徴はなかった一方、本ウイルスは培養系においてAktのSer473リン酸化を(1)感染CD4陽性細胞及び(2)可溶性Nef侵入B細胞中で惹起することを見出した。この表現型はin vivoで(1)機能不全(濾胞)CD4陽性T細胞の細胞死亢進と(2)B細胞成熟抑制の解除にそれぞれ直結する。G63E変異NefのpAkt Ser473抑制機構は上流PI3K刺激依存性の動的な表現型であることもリガンド刺激実験・トランスクリプトーム解析により解明した。 以上より、エイズウイルス中和抗体誘導に直結するマスターイベントとしてのAkt修飾変異体選択の概念を発見した。本結果は普遍的にウイルス中和抗体誘導を解析・設計する上での急所を見出したもので、その意義は非常に大きい。
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