研究課題/領域番号 |
25860349
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
中原 知美 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, 研究員 (60601177)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヒトパピローマウイルス / 子宮頸がん / ウイルスゲノム複製 / NFkB / インターフェロン / 持続感染 |
研究概要 |
(1)NFkB活性化によるHPVゲノム複製の抑制機構の解明 申請者らは、以前に、HPV16の持続感染培養モデルを樹立し、ウイルスDNAヘリカーゼであるE1タンパク質は、ウイルス生活環における初期および後期ゲノム複製には必須であるが、維持複製には必要ないことを報告した。一方で、HPV16ゲノムを維持複製する細胞に、外来性プロモーターよりE1発現を誘導するとNFkBが活性化すること、NFkBの活性化は、少なくともE1依存的なゲノム複製を抑制することを見出した。 初年度は、E1依存的および非依存的なHPVゲノム複製を抑制する宿主因子の同定を目的として、NFkBによるウイルスゲノム複製抑制のメカニズム解明を試みた。結果、NFkBはプロテオソームを介したE1のタンパク質分解を促進することにより、E1依存的なゲノム複製を抑制することを見出した。さらに、NFkB活性化は、ウイルス初期プロモーターの抑制を介してウイルス初期遺伝子群の発現を制御する可能性をも見出した。一方で、HPV16を維持する角化細胞では、NFkB活性化によるインターフェロンの誘導は予想より低かったことから、ウイルスがん遺伝子E6・E7等の働きによりインターフェロン誘導が抑制されている可能性が示唆された。つまり、NFkB活性化は維持複製中のE1発現の制御に関与するが、E1非依存的なゲノム複製の抑制効果はあまり高くないことが分かった。 (2)E1非依存的維持複製をモニターできるレポーターウイルスゲノムの作成 E1非依存的なウイルスゲノム複製を抑制する宿主因子を網羅的に解析するため、レポーター遺伝子を搭載したHPV16ゲノムを作製して評価した。レポーター遺伝子として分泌型ルシフェラーゼを用いると、100細胞程度(1細胞あたり1コピーのウイルスゲノム)からでも十分検出可能であった。非常に感度の高いレポーターの作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の成果として、NFkBによるE1発現の制御という新規の発見はあったが、その活性化はインターフェロンの誘導を介してウイルスゲノム維持複製をも抑制するという当初の仮説を見直す必要が生じた。維持複製のモニターに適したレポーター遺伝子搭載ゲノムの作製および評価は終えたが、これらのレポーターゲノムの維持複製効率はやはり90%程度であり、不死化した角化細胞に導入すると継代により徐々にレポーターゲノムコピー数が減少するため、数か月間隔で細胞を作りなおさなければならないという欠点が克服できていない。当初はさらに薬剤耐性遺伝子を搭載することにより、その欠点を克服することを計画していた。一方で、野生型HPV16ゲノムを用いて、不死化した角化細胞であっても、一定のウイルスゲノムコピー数を長期間に渡って維持する細胞を得ることができた。すなわちこのような細胞が得られた背景を詳細に解析すれば、今後、薬剤耐性遺伝子の追加搭載をせずとも、長期間HPVゲノムを維持できる細胞を意図的に作製することが可能になると考えた。なるべく本来の持続感染に近い条件下でスクリーニングするためには、薬剤耐性遺伝子の追加搭載はあまり適さない。しかしながら、現状では、HPVゲノムを長期間維持できる細胞を意図的に作製できる条件の検討が終わっていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、レポーターゲノムへ薬剤耐性遺伝子の追加搭載し、スクリーニングを進める一方で、薬剤耐性遺伝子の追加搭載なしで、長期間ウイルスゲノムを維持できる細胞の作製に取り組みたい。HPV16ゲノムを長期間に渡って維持する細胞に、ウイルス初期遺伝子E7のsiRNAを導入すると、細胞増殖が低下する。一方でHPV16ゲノムを徐々に失う細胞では、E7siRNAによる増殖抑制効果は見られない。つまり、すでに不死化した角化細胞であっても、E7等の発現によりさらなる細胞増殖能の亢進効果が得られた細胞は、長期間の培養中もウイルスゲノムを失わない可能性が高い。同一細胞であってもE7による細胞増殖亢進効果に差が生じる原因については判明していないが、NFkB活性化はウイルス初期遺伝子の転写を抑制することが判明したことから、角化細胞へのレポーター搭載ウイルスゲノム導入と同時にNFkB阻害薬を一定期間処理することにより、E7等の発現がより高い細胞を増やせるかどうか等について検討したい。 さらに平行して、インターフェロンの維持複製に対する効果を検証した上でインターフェロンおよびNFkB応答遺伝子のcDNA発現ライブラリーを作製し、スクリーニングを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は、本研究課題に関わる仮説の証明に焦点を置いたため、マイクロアレイ等の比較的費用を要する研究の実施に至らなかった。また、細胞培養や生化学的実験に関わる試薬は、他の研究課題で使用する試薬と共通したものが多かった。 初年度の研究成果(1)(2)を、2つの論文としてそれぞれ投稿する準備を現在進めている。2報の投稿に関わる費用は概算で700千円程度になる予定であり、次年度使用額とほぼ同額であるため、その費用に使用する。残額は、初年度実行できなかったマイクロアレイ等の解析の費用として使用する。本年度の請求額に関しては、当初の計画通り、スクリーニングに必要な細胞培養試薬や、ライブラリーの作製等として使用する。
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