研究課題
若手研究(B)
交付申請書に記した研究目的に即し、私は免疫系におけるポリコーム群(PcG)およびトライソラックス群(TrxG)複合体による転写制御機構の解析を行った。特に、上記分子のChIP-seq解析を中心としたゲノムワイド規模での機能解析に力点を置き論文を執筆した。結果として、PcG群タンパク質の1種であるEzh2が免疫系のブレーキ役として働く現象を見出し論文として報告した。この論文に関してはプレスリリースを行い、その内容はNHKニュースおはよう日本の首都圏版で放送されたことから、非常に意義のある研究成果を挙げることができたと考えている。また、PcGとTrxGの両者により制御されるGATA3がTh2細胞機能維持全般に果たす役割について網羅的に解析し、論文発表した。PcGおよびTrxG複合体に関してはさらに詳しい解析を遂行し、数報の論文が投稿中である。学会発表は国内外で数回行った。また、科研費に採択されている研究課題が公募の対象となる新学術領域研究「ゲノム支援」の支援課題としても選定され、記憶T細胞のChIP-seqおよびRNA-seqデータの取得を行った。このことから、ゲノム領域の研究者からも一定の評価を頂けたものと考えている。ゲノム支援の研究活動に関係する研究者が一堂に会する拡大班会議にも出席し、研究成果を発表するとともにゲノムワイド解析の専門家や生物学の様々な分野の研究者と積極的に情報交換を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
交付申請書に記した研究計画に即して記載する。PcG/TrxG複合体の結合領域のゲノムワイド解析は順調に進行している。また、最近汎用されている“CIRCOS”を用いて、ES細胞とT細胞のPcG/TrxG複合体の結合を比較し可視化することに成功した。これは当初の計画以上の進展であり、現在は論文としてまとめ投稿中である。Menin(TrxGの1種)欠損マウスの解析は順調に進み、データをまとめて論文として投稿中である。その内容としては、Menin欠損マウス由来のTh17細胞はIL-17A産生能が低下している、Menin欠損マウスでは好中球性の気道炎症が軽減される、MeninはIL-17Aをコードする遺伝子座に直接結合し転写制御を行う、といった項目で構成されている。Ezh2(PcGの1種)欠損マウスの解析は、研究実績の概要にも記載した通り論文として発表することができたため、一定の成果を挙げられたと考えている。さらにはEzh2とMeninの両方が結合するco-occupied geneに着目して、Ezh2欠損に感受性の高い遺伝子群の特徴について解析を進めている。PcG/TrxG複合体標的遺伝子上でのRNAPII結合およびリン酸化の動態解析については、記憶T細胞をモデルとして実験を行った。ChIP-seqおよびRNA-seqのデータの取得までは順調に終了したので、今後はこれらを詳細に解析し新たな理論の構築を目標として研究に取り組みたい。
第一に、現在投稿中の論文が受領されるよう追加実験や再解析等に取り組んでいく。査読者から要求される追加実験に関しては、現在進めているものや計画中のものもあり、平成26年度中に成果として発表できるよう最大限の努力をする所存である。第二に、今までの研究で確立したゲノムワイド解析方法を記憶T細胞の研究に適用する。免疫記憶に関する未解決問題の1つに、“なぜ記憶T細胞はナイーブT細胞(未感作)に比べて迅速な免疫応答を起こすことができるのか”というものがある。ナイーブT細胞と記憶T細胞の抗原刺激後のエピゲノム解析およびトランスクリプトーム解析を行うことで、先述の未解決問題にアプローチしたい。既にデータの一部は取得済みであり、平成26年度は情報解析に集中して研究を進めていく予定である。具体的には、ナイーブT細胞と記憶T細胞の両者における抗原応答性遺伝子群を抽出し、特に記憶T細胞で強く発現が誘導される遺伝子を絞り込む。絞り込まれた遺伝子のエピジェネティックな特徴を見出し、マウスモデルを使った実験で確認する。第三は、新規の実験装置や実験モデルを用いた研究の遂行である。これはdigital PCRの活用と数理モデル解析を念頭に置いている。研究が当初の計画以上に進展し、次のステップに進める目処がついてきたため、これら新たなシステムを用いた研究にも取り組んでいきたい。我々が今まで構築してきた分子生物学的手法やゲノムワイド解析手法と新規実験系の融合を図りながら、本研究課題が目標とする免疫細胞記憶制御機構の解明に繋げていきたい。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) 備考 (2件)
Immunity
巻: 39 ページ: 819-832
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PLOS ONE
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http://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/pdf/2013/20131111.pdf
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131115/