研究課題/領域番号 |
25860365
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石川 絵里 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (20546478)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | T細胞分化 / シグナル伝達 / セリンスレオニンキナーゼ |
研究概要 |
胸腺において未熟T細胞は自身が発現するT細胞受容体(TCR)とリガンドであるMHC+抗原複合体との親和性を感知し、正の選択を受けCD4+あるいはCD8+T細胞へと分化するか、負の選択により死に至るかが決定されるが、このように抗原の質を多様な応答に変換する分子機構の詳細は未だに不明である。我々は近年、未熟T細胞において抗原刺激に伴い強くリン酸化されるセリン/スレオニンキナーゼ、PKDを見出した。T細胞に発現する2つのアイソフォームPKD2、PKD3をT細胞特異的に二重欠損するマウスを樹立し、PKDを全く発現しないT細胞の分化を調べたところ、予期しないことにCD4+T細胞のみが特異的に消失していることを見出した。この現象は、これまで報告のない独自の知見であり、当該マウスを用いてPKDの基質を探索することで、未だ明らかとなっていないCD4+/CD8+T細胞への運命決定の分子メカニズムを解明できるのではないかと考えた。 本年度は当該マウスの詳細な解析を行った。PKD欠損CD4+T細胞は野生型に比べ生存率が低いことが明らかとなったが、生存シグナルを補ってもCD4+T細胞への分化を回復できなかったことから、CD4+T細胞の消失は、単に細胞の生存率が低いことだけが原因ではないと考えられた。次に、TCR Tgマウスと交配しTCRを1種類に固定することで、CD4+細胞あるいはCD8+細胞への正の選択における影響を調べたところ、CD4+T細胞への正の選択が著しく障害されていることが明らかとなった。また、CD4+T細胞へのcommitmentも障害されていた。これらの結果から、PKD欠損細胞では、TCRシグナルが減弱していることが強く示唆された。PKDのキナーゼ活性がCD4+T細胞分化に重要であることが確認できたため、次にTCRシグナル下流におけるPKDの基質探索を行った。現在までのところ、TCRシグナルに関与することが知られているいくつかの分子のリン酸化が、PKD欠損細胞で減弱していることが明らかとなってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、我々が新規に樹立し、CD4+T細胞のみが特異的に消失することを見出したセリンスレオニンキナーゼ、PKDのT細胞特異的欠損マウスを解析することで、未だ明らかとなっていないCD4+/CD8+T細胞への運命決定の分子メカニズムを解明することである。 我々はまず当該マウスおいてCD4+T細胞が著しく減少している原因を明らかにすることを試みた。【仮説1】CD4+T細胞への正の選択が障害されている、【仮説2】CD4+T細胞へのcommitmentが障害されている、【仮説3】CD8分子の発現低下が障害されている、【仮説4】CD4+T細胞の生存が障害されている、という4つの可能性を想定し、その全てについて検証を行ったところ、【仮説1】と【仮説2】のCD4+T細胞への正の選択およびCD4+T細胞へのcommitmentが共に障害されていることが明らかとなった。この結果から、PKD欠損未熟T細胞ではTCRシグナルが減弱していることが強く示唆された。 次に、in vitro T細胞分化系を用いることにより、PKDがアダプターとして働いているのではなく、そのキナーゼ活性がCD4+T細胞生成に必要であることを明らかとした。この前提を受け、抗リン酸化タンパク質抗体を用いた従来の方法により未熟T細胞におけるPKDの基質探索を行ったところ、この方法ではPKD欠損細胞で明らかにリン酸化が低下している分子を見つけることはできなかった。そこで、精製したリン酸化タンパク質を蛍光標識し、二次元電気泳動を行うことにより、PKD欠損細胞特異的にリン酸化が低下しているタンパク質を網羅的に解析したところ、いくつかの基質候補分子を見出した。さらに、マススペクトル解析によりこれらの分子を同定し、そのいくつかはTCRシグナルに関与することが既に知られている分子であることが判明した。よって、予定していた基質候補分子の探索さらには同定まで到達できたため、本年度の研究計画は概ね達成できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度同定した未熟T細胞におけるPKDの各基質候補分子について、まずはTCRシグナルに関与することが既に知られている分子について、PKDの直接の基質であるか否かをキナーゼアッセイにより検証する。また、直接の基質であるならば、PKDによるリン酸化部位をマススペクトル解析により同定する。リン酸化部位の同定に至れば、基質分子のセリン/スレオニンをアラニンに置換したリン酸化されない変異体を作成し、培養細胞あるいはin vitro T細胞分化系に導入することにより、PKDによる基質分子のリン酸化のT細胞分化における生理的意義を検討して行く予定である。具体的には、基質分子の安定性や機能に与える影響、他のシグナル分子との結合に与える影響と、TCRシグナルおよびCD4+T細胞生成に与える影響を調べることを考えている。in vitroの系で検証が難しい場合には、変異体トランスジェニックマウスあるいはノックインマウスの作製も視野に入れる。また、逆にPKD欠損細胞に基質分子のリン酸化をミミックした恒常的活性化型変異体を導入することで、CD4+T細胞への分化を回復できるか否かについても検討する。 本研究計画作成時に作製中だったT細胞特異的One-STrEP-tag(強親和性Tag)-PKD2 Tgマウスは、トランスジーンの発現が確認でき、PKD二重欠損マウスとの交配によりPKD2を再構築したマウスがようやく数匹得られてきた。まず当該マウスでCD4+T細胞分化異常が回復するか否かを検証し、機能回復に成功した場合には、未熟T細胞からTagを利用して高純度にPKDを精製し、その結合分子を得ることで、本年度同定された以外のPKDの基質候補分子、あるいは上流/下流シグナル分子を得られる可能性があると考えている。 以上の方法により、PKDのT細胞分化における役割を明らかにすることで、未だ明らかとなっていないCD4+/CD8+T細胞への運命決定の分子メカニズムの解明を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
One-STrEP-tag(強親和性Tag)-PKD2 TgマウスとPKD二重欠損マウスとの交配に考えていたより時間がかかり、本年度は解析に至れなかったため、消耗品費に差額が出た。 PKD二重欠損マウスにOne-STrEP-tag-PKD2を再構築したマウスがようやく数匹得られてきたので、当初は本年度行う予定にしていたCD4+T細胞分化異常が回復するか否かの検証を、次年度行う予定である。
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