我々は近年、未熟T細胞において抗原刺激に伴い強くリン酸化されるセリン/スレオニンキナーゼPKDを見出し、T細胞に発現する2つのアイソフォームPKD2、PKD3をT細胞特異的に二重欠損するマウスを樹立したところ、予期しないことにCD4+T細胞のみが消失していることを発見した。この現象はこれまで報告のない独自の知見であり、当該マウスを用いてPKDの基質を探索することで、未だ明らかとなっていないCD4+/ CD8+T細胞への運命決定の分子メカニズムを解明できるのではないかと考え、本研究を行った。昨年度までの当該マウスの詳細な解析から、PKD欠損胸腺細胞ではTCRシグナルが減弱しており、CD8+T細胞に比べCD4+T細胞への分化がより影響を受けていることが明らかとなってきた。また、TCR刺激によりリン酸化が誘導され、PKD欠損胸腺細胞でリン酸化が減弱する分子をプロテオミクスにより網羅的に解析したところ、いくつかのPKDの基質および下流候補分子を同定した。 本年度はまず、候補分子がPKDの直接の基質であるか否かをキナーゼアッセイにより検証した。その結果、4種類のシグナル分子がPKD2、PKD3により直接リン酸化される基質であることが判明した。また、変異体を作製することで、各分子のリン酸化部位を同定した。抗原刺激によりCD4+T細胞への分化を誘導できるCD4+CD8+DP細胞株DPKに基質分子のリン酸化不能変異体を導入したところ、ある1種類の基質の変異体を導入した細胞でのみCD4+T細胞への分化およびCD5の発現上昇に減弱傾向が見られた。このことから、PKDによる当該基質分子のリン酸化は、T細胞分化に寄与していることが示唆された。一方、昨年度までにPKD結合分子探索のツールとして作製した強親和性Tag付きPKD2 TgマウスをPKD二重欠損マウスと交配しPKD2を再構築したマウスでは、T細胞分化異常が回復することが確認できたが、これまでのところPKD特異的な結合分子は得られていない。
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