研究課題/領域番号 |
25860368
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
藩 龍馬 横浜市立大学, 医学部, 助教 (50635357)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 自然免疫応答 / 転写因子 / 自己免疫疾患 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は自然免疫応答における新規の転写因子制御機構を解明することである。これまでの研究により、転写因子interferon regulatory factor 8 (IRF8) によって発現誘導される別の転写因子IRF5が、SrcファミリーキナーゼであるLynによって抑制されるということが判明した。IRF5は自然免疫応答に重要な役割を担っている一方で、その遺伝子多型は自己免疫疾患である全身性エリテマトーデス(SLE)と関連することが多数報告されている。したがって、IRF5の制御機構を解明することはSLEをはじめとする自己免疫疾患の治療法開発につながることが期待できる。そこで当該年度では、研究実施計画の「免疫応答時における転写因子制御機構の解析」に重点を置き、LynによるIRF5の抑制機構の詳細を解析した。 まず、LynはIRF5による転写活性化を選択的に抑制するが、この抑制にLynのキナーゼ活性は必要ではないことが判明した。次に、LynはIRF5と自然免疫刺激依存的に会合することが分かり、このLyn-IRF5相互作用にはLynとIRF5それぞれ2つのドメインが重要であることが示された。そこで、IRF5と会合できないLynを解析した結果、LynによるIRF5の抑制は顕著に減弱した。これまでの結果と合わせ、LynはIRF5と結合することにより、リン酸化などの翻訳後修飾によるIRF5の活性化を抑制し、その結果IRF5による転写活性化を抑制していることが考えられる。LynによるIRF5抑制機構を更に解明することで、IRF5の活性化が増悪に働く疾患の治療法開発に繋がることが期待できる。 以上の結果とこれまでの研究結果をまとめ、第43回日本免疫学会学術集会で口頭およびポスター発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究実施計画では、IRF8の「標的遺伝子の複合的解析」と、「免疫細胞の分化と免疫応答時における転写因子制御機構の解析」を計画していた。前者においては、IRF8によって発現誘導されるIRF5について、質量分析によるIRF5の活性化に必要なリン酸化部位の同定や、マイクロアレイ解析によるIRF5依存的に誘導される遺伝子の解析を行った。また、後者に関しては、IRF5の抑制因子として同定されたLynについて、ノックアウトマウスの解析はこれまでに行っているので、その抑制機構の詳細を解析した。「研究実績の概要」に記載した内容に加え、この解析にも質量分析とマイクロアレイ解析を用い、Lynによって抑制されるIRF5のリン酸化部位の同定と、Lynによって抑制されるIRF5依存的な遺伝子誘導の解析をそれぞれ行った。 以上のように平成26年度の研究実施計画をおおむね遂行できており、本研究を遂行する上での具体的な工夫として挙げた質量分析とマイクロアレイ解析を行うこともできた。一方で、研究計画で考えていたバイオインフォマティクス解析による転写因子ネットワークの解析は行えず、IRF8の標的遺伝子の網羅的な解析ではなく、IRF5という一つの標的遺伝子に絞った解析になってしまった。その分、LynによるIRF5の抑制機構について詳細な解析を行うことができたため、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績で述べたLynによるIRF5の抑制機構と、これまでノックアウトマウスを用いて解析を行った全身性エリテマトーデスの病態発症におけるIRF5とLynの関連については、第43回日本免疫学会学術集会で口頭およびポスター発表を行った。また、現在論文を準備中であり、平成27年度中に出版まで進め、また研究成果を学会で発表する予定である。 平成27年度の実施計画では、「免疫応答に特異的な制御機構の調節法の開発」が主体となっている。これに関して、IRF5-Lyn相互作用を亢進する、あるいはLynによるIRF5抑制を模倣するような化合物をスクリーニングすることができれば、IRF5の活性化を阻害することによる免疫応答の調節法の開発に繋がることが考えられるが、スクリーニング系の構築など困難が予想される。そこで、平成27年度では、LynによるIRF5抑制機構を更に解析することも計画する。例えば、LynがIRF5を抑制している具体的な免疫細胞の同定や、SLE様の病態が生じるLynノックアウトマウスにおけるIRF5の活性化状態の検討などを行うことを考えている。これによって免疫細胞あるいは生体におけるLynとIRF5の関係を明らかにし、薬剤の標的細胞などLyn-IRF5軸を標的とした調節法を行う上での予備知見を得たい。
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