研究課題
若手研究(B)
本研究では、T細胞分化におけるBach2の役割を、特に末梢T細胞の運命決定機構への関与を中心に検討を進めている。具体的には、1)ヘルパーT(Th)細胞サブセット分化、2)メモリーT細胞分化、3)T細胞老化におけるBach2の役割について解析をおこなうとともに、4)Bach2の発現調節機構を明らかにする。平成25年度の研究実績として、申請者らは、T細胞特異的な腫瘍抑制因子Menin欠損マウスおよびBach2欠損マウスの解析から、Bach2の発現はMeninにより調節されること、Menin-Bach2経路が老化T細胞の呈するSASP(炎症性サイトカインを含む分泌性の炎症性因子を高発現する細胞形質)を制御することを明らかにした(Nat Commun. 2014)。この論文において、MeninはBach2遺伝子座のプロモーター領域に結合し、ヒストンアセチル化酵素の1つであるPCAFをリクルートすることで、ヒストンアセチル化を介して、Bach2の発現を維持していることを示した。そして、T細胞老化に伴い、MeninとPCAFがBach2遺伝子座のプロモーター領域に結合できなくなり、Bach2の発現が低下することがわかった。また、Menin欠損CD4T細胞やBach2欠損CD4T細胞では、抗原刺激による活性化後、SASPが認められるが、Menin欠損CD4T細胞にBach2を強制発現させると、SASPが抑制されることから、Menin-Bach2経路がSASPを制御することがわかった。これらの成果から、Bach2の発現はMeninによって調節されること(Bach2の発現調節)、Bach2は老化T細胞のSASPを制御すること(T細胞老化におけるBach2の役割)を明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、T細胞分化におけるBach2の役割を、特に末梢T細胞の運命決定機構への関与を中心に検討することを目的としている。具体的には、Bach2による1)ヘルパーT(Th)細胞サブセット分化制御、2)メモリーT細胞サブセット分化制御の解明、3)T細胞老化におけるBach2の役割の解明、4)Bach2発現制御機構の解明の4項目を計画し、解析を進めている。申請者らは、平成25年度の研究実績として、Bach2の発現はMeninによって調節され、Menin-Bach2経路が老化T細胞のSASPを制御すること明らかにしたことから、項目3と項目4については概ね明らかにすることができたと考えている。今後は、項目1と項目2について研究を進める。申請者らは、Bach2欠損CD4T細胞において、Th1/Th2分化が亢進し、iTreg(Foxp3+)細胞が減少する知見を得ている。さらに、抗原刺激後早期に、野生型CD4T細胞に比べ、Th2サイトカインを多く産生することもわかった。これに加え、ChIPシーケンスの解析から、Bach2はTh2サイトカイン遺伝子座に結合していることが明らかとなった。また、T細胞特異的Bach2欠損マウスでは、Th2型のアレルギー性気道炎症が増悪する結果も得ている。これらの結果から、Bach2はTh2分化を抑制していることが考えられる。現在、Bach2によるTh2分化制御機構の詳細なメカニズムを検討している(項目1の解析)。また、Bach2によるメモリーT細胞分化制御の解明については、Bach2の発現がセントラルメモリーT細胞で高く、エフェクターT細胞で低いことがわかっている状況であり、平成26年度も引き続き解析を進める(項目2の解析)。
平成26年度は、Bach2による、1)ヘルパーT(Th)細胞サブセット分化制御、2)メモリーT細胞サブセット分化制御の解析を進める。項目1について、申請者らは、平成25年度までに、T細胞特異的Bach2欠損マウスの解析から、Bach2がTh2分化とTh2型免疫反応である気道炎症を抑制するという知見を得ている。現在、Bach2によるTh2分化制御の分子メカニズムの解析を進めている。また、Bach2と会合する分子の同定も計画しており、Bach2と会合する分子の同定が成功したならば、Bach2によるTh2分化制御機構の詳細だけでなく、その他のThサブセット分化におけるBach2の機能を明らかにすることができると考えている。項目2については、Bach2の発現がセントラルメモリーT細胞で高く、エフェクターT細胞で低いという知見を得ていることから、特にBach2の発現量とメモリーT細胞サブセット分化(Tcm/Tem分化)の関係を、T細胞特異的Bach2欠損マウスを用いて解析する。実験系として、in vitroで活性化したCD4T細胞(脾臓由来)をマウスに移入するadoptive transfer系と、Listeria-OVA感染系を考えている。まず、adoptive transfer系を用いて、Bach2欠損CD4T細胞のメモリーT細胞形成能とTcm/Tem分化を検討する。次に、生体内で分化した抗原特異的活性化CD4T細胞の検出が可能な、Listeria-OVA感染とOVA-MHC IIもしくはOVA-MHC Iテトラマーによる抗原特異的T細胞検出系を用い、抗原が存在する生理的な条件下でのメモリーT細胞分化におけるBach2の役割について解析する。
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Nature Communications
巻: 5 ページ: 3555
10.1038/ncomms4555
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20140402-2/