研究課題/領域番号 |
25860376
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
桑原 誠 愛媛大学, 医学部附属病院, 助教(病院教員) (00568214)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 免疫老化 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、末梢 CD4 T 細胞の運命決定機構における転写抑制因子 Bach2 の役割を明らかにすることを目的とし、研究を進めている。平成25年度には、CD4 T 細胞老化の特徴の一つである SASP (炎症性サイトカインを含む分泌性炎症因子を高発現する細胞形質) が、腫瘍抑制因子 Menin による Bach2 の発現調節を介して制御されていることを明らかにした (Nat Commun. 2014)。 平成26年度はヘルパーT細胞(Th)サブセット分化における Bach2 の役割を解析した。私たちが樹立した T 細胞選択的Bach2欠損マウスでは、アレルギー性気道炎症を自然発症していることが明らかとなった。そこで、in vitro における Bach2 欠損 CD4 T 細胞のTh2分化を検討したところ、Th2 分化の亢進が認められた。また、Bach2 は Th2 サイトカイン遺伝子座の locus control region や IL-4 enhancer に結合していること、その結合領域には Bach2 結合配列が存在していることを明らかにした。これに加え、Bach2欠損活性化 CD4 T 細胞のメタボローム解析やDNA microarray 解析から、Bach2 は活性化 CD4 T 細胞のグルタミン代謝を調節していることを見いだした。グルタミン代謝系酵素に対する阻害剤は、Bach2 欠損による Th2 分化亢進を抑制するとともに、T細胞選択的Bach2 欠損マウスにおいて自然発症する気道炎症の病態を軽減させた。これらの結果から、Bach2 は Th2 サイトカイン(特に IL-4)産生を直接抑制することに加え、抗原刺激後の細胞内代謝変化を調節することで、Th2 分化を阻害していることが示された。現在、Bach2 による活性化 CD4 T 細胞内代謝調節を介した Th 細胞分化制御の詳細を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究における検討項目は、1) ヘルパー T 細胞 (Th) サブセット分化、2) メモリー T 細胞サブセット分化、3)T細胞老化における Bach2 の役割と、4) Bach2 の発現制御機構の4項目である。項目1)、3)、4)についての解析は順調に進み、一部は論文として発表済みである (Nat Commun. 2014)。 検討項目1) については、Th2 分化および Th2 型免疫反応 (アレルギー性気道炎症)における Bach2 の役割を明らかにすることができている。今後、Th2 以外の Th サブセット分化およびメモリー T 細胞サブセット分化における Bach2 の機能を解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、昨年度に引き続き、Bach2 によるヘルパーT細胞 (Th)サブセット分化制御の解析を行う。特に、Bach2 がグルタミン代謝を調節している知見を得たことから、Bach2 による活性化CD4 T細胞代謝調節とThサブセット分化制御の関係を明らかにしたいと考えている。一方、転写抑制因子Bach2 は DNA結合領域を有さない分子であるため、パートナー分子とともに標的分子の転写を抑制している。私たちは、コムギ無細胞蛋白質合成系とアルファスクリーンによるハイスループットスクリーニング法により、Bach2 結合蛋白質Xを新規に同定し、この分子XとBach2の結合を免疫共沈降法にて確認した。これに加え、Bach2 結合領域における、Bach2 と分子Xの複合体の結合をプルダウンアッセイにて明らかにした。そこで、この分子X のT細胞選択的欠損マウスを作製し、T 細胞における分子X の機能を解析することで、Bach2 の末梢 CD4 T 細胞の運命決定機構における役割を詳細に明らかにしたいと考えている。
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