近年、生殖補助医療技術の利用が急激に普及し、生殖補助医療によって子をもつ家族が増加するなかで、生殖補助医療によって生まれてくる子の福祉の保障が大きな社会的課題となっている。生殖補助医療のなかでも、特に問題とされるのは、第三者(ドナー)の配偶子・胚の利用に関するものである。本研究では、生殖補助医療における課題、特にドナーの匿名性廃止と子の出自を知る権利の保障について、オーストラリア・ビクトリア州における生殖補助医療を規制する法制度や、法制度に対する子、家族、ドナー、および社会的反応に焦点を当てて分析した。 ビクトリア州では、子の出自を知る権利は、1984年に制定されたInfertility (Medical Procedures) Act 1984(1984年法)の施行以来認められているが、1984年法施行前にドナーの匿名性のもとに生まれた子の出自を知る権利は保障されていなかった。このような状況に対して、ビクトリア州法改正委員会は、子の出自を知る権利を遡及的に認めるよう勧告した。勧告に至る背景、勧告の内容、勧告に対する子や家族、ドナーの対応を含めた社会的反応を調査した。さらに、勧告に対するビクトリア州の回答や回答に基づいて2014年に議会を通過した改正法案(Assisted Reproductive Treatment Further Amendment Bill 2013)について、子、親、ドナーの権利の対立と調和の視点から考察した。これらの事例をもとに、日本における生殖補助医療の法制度化を巡る課題を子の出自を知る権利の視点から分析した。
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