今年は,医療事故情報センター及び医療問題弁護団所属の弁護士を通じた,医療事故被害者・家族へのアンケートの回収を継続した。本年度に入り,4月以降13件の回答があり,合計回答数は127件となった。回収率は,22.7%(559部配布)であった。アンケート回収期限後は,希望者に対して,協力に対する謝礼及び礼状を送付した。回答を,外部へ委託しデータベースの作成,スキャン作業を行った。このデータベースを基に,主に単純集計作業を行った。 被害者が医師を訴える4つの大きな理由は,1)再発防止,2)補償,3)責任の所在,4)説明責任である(Vincent 1994)。本研究におけるこれらの結果は以下の通りである。1)病院側からの再発防止に関する具体的言及があった事例は14件,抽象的言及があった事例は16件,言及がなかった事例が75例であった。2)病院側から金銭的な補償に対して言及があった事例が20件,なかった事例は72例であった。3)病院側が責任を認めたかについては,「病院側に責任があることを認めた」が28件,一部認めたが12件,認めなかったが57件であった。4)病院側の説明が十分であったかについては,「説明があった」が14件,「説明があったが不十分」58件,「説明はなかった」44件と,説明はなかったと考える被害者・家族が多かった。 また,弁護士への相談理由は,「納得のいく説明がなかった」が最も多く46件,ついで,「責任を認めなかった」が13例,「診療の質がどの程度であったが知りたかった」と「制裁を加えたかった」が各10件となっていた。 これらの結果から,我が国においても,海外の被害者と同じように,説明不足,責任の所在のあいまいさ,再発防止への姿勢,補償への姿勢が,医療事故被害者を弁護士への相談という行動へと向ける可能性が示唆される。
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