本研究の目的は、1990年以降主に北米を中心に普及が始まった医療上の意思決定を支える情報提供の試みである「意思決定支援ツール(Decision Aid;以下、DA)」に着目し、その活用の現状や課題、日本のがん医療におけるDA活用のあり方を検討することである。 DAは、適切な医学情報を提供するだけではなく、治療上の意思決定場面において、患者の価値観を明確にしたり、選択における優先順位を明確化することを助けるとされる。特に、選択に葛藤が伴う複雑な意思決定場面での活用が意図されていることから、今後、がん医療での活用が期待される。一方で、意思決定の分野で知られるカナダのOttawa Health Research Instituteのサイトには、今日、幅広い領域で600を超えるDAが登録されているものの、その質にはばらつきがあるとも報告される。 本研究では、End of Life(以下、EOL)に関するDAを用いた介入研究について、その効果を分析するとともに、関連文献や本領域の複数の専門家からの推薦によりEOLに関するDAを幅広くピックアップし、背景情報と内容、質の評価を行った。 その結果、EOLにおけるDA活用による有効性の指標としては、病状や予後に関する知識、希望する治療内容、DAへの満足感などが多く、全般に有効性が高く示されていた。また、多くは、Advance Directive作成に関するものであり、疾患の有無に関わらず利用可能なものであった。一方で、実際にがんの終末期などの状況におかれた患者を対象としたDAは限られており、DAの質の評価(IPDASチェックリスト)からは、DAの「内容」や「作成プロセス」「有効性を示すエビデンスの有無」の項目を網羅したツールは非常に限られていた。 今後、臨床での活用・普及に際しては、多職種での専門家や患者でチームを編成したうえで、DAの目的やアウトカム設定を含めた十分な議論を行い、活用の効果に関する継続的な検証が求められる。
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