本研究は、申請者が明らかにしたV-1タンパク質によるドーパミン(DA)生合成酵素のアクチン重合依存的な新規発現制御機構に着目し、その生理機能発現機序およびパーキンソン病治療応用に向けた有効性を検討した。分子生物学的検討の結果、V-1がRhoA/Rac1/mDiaを協調的に活性化しアクチン重合促進を介してSRF依存的転写活性を増強する分子機序を見出した。また同生理機能発現にはV-1の44番アミノ酸残基が重要であり同残基を介したV-1とアクチン結合タンパク質(CP)との結合が必須であることを見出した。さらにV-1依存的SRFシグナル経路がDA生合成酵素群であるチロシン水酸化酵素(TH)芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)およびNurr1の遺伝子発現を制御することを見出した。次に生体レベルにおけるV-1の生理機能発現機序を明らかにするため、野生型または変異型V-1発現レンチウイルスベクターをC57BL6マウスに脳内投与し、RhoA依存的経路の活性変化およびDA生合成酵素群の発現レベル変化を検討した。野生型V-1発現によりLIMK/cofilinリン酸化レベルが上昇しTH/AADC/Nurr1の発現レベルおよびDA生合成レベルが増大したが、変異型V-1発現ではそれらが減弱したことから、V-1が生体レベルにおいてもDA作動性ネットワークの機能増強維持に重要であることを見出した。本研究結果よりV-1/CP複合体によるRho/Rac/mDia-MAL/SRFの賦活化を介したDA生合成酵素群の統合的発現増強およびDA生合成増強機構が明らかとなり、また生体レベルにおいてもDA生合成酵素群の発現増強維持においてV-1が重要であることが示された。今後はV-1依存的DA作動性制御ネットワークの高次機能解析を行い、より高効率なDA生合成酵素群の増強機構をパーキンソン病へ適応できるよう研究を実施する予定である。
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