研究課題/領域番号 |
25860400
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 大阪大谷大学 |
研究代表者 |
奥田 明子 (田所 明子) 大阪大谷大学, 薬学部, 助教 (60454584)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ドラッグデリバリー |
研究概要 |
タンパク質など高分子化合物の細胞内導入方法は、生体へのドラッグデリバリーを行う際に非常に重要な技術であると言える。しかし、その導入方法については様々な性質を持つ高分子に対してマルチに対応できる方法はもとより、イメージングに汎用されるGFPなど分子量2~3万程度の蛍光タンパク質の導入法でさえ未だ模索段階である。そこで本研究では、細胞内移行ベクターとして塩基性に富んだオリゴアルギニンからなる膜透過性ペプチド(CPP)を用い、細胞内への効果的な化合物の導入方法の開発を目指した。具体的には、サイトゾルに移行した分子のみを検出して評価できるリアルタイムイメージング法を確立し、最適導入条件の検討を行うことを目的とした。細胞内に導入されたタンパク質のみを検出する為に、蛍光タンパク質の再構成系を利用し、予め細胞内でN末端側を発現させておき、C末端側の断片を細胞内に導入することによって細胞内で再構成された蛍光を検出し、細胞内への導入効率を評価することとした。2013年度は、様々な種類のCPP、細胞種、蛍光タンパク質を用いてその組み合わせによる導入効率の違いについて比較検討を行った。更に、導入効率が良い組み合わせについて詳細な導入条件の検討を行うことにより、細胞内へ目的のタンパク質を高効率で導入することができる条件を見出した。この条件を用い、今後サイトゾル内へ導入されたタンパク質のリアルタイム検出を試みる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2013年度の目標は、CPPのサイトゾル移行検出法の確立であった。その検出法の確立の為に、高効率でタンパク質をサイトゾルへ導入させることを可能とするCPPの検索を行った。用いたCPPは、オリゴアルギニン8と12のそれぞれL体とR体である。導入分子としてKGとEGFPを用い、細胞はHeLaとHEK293を使用した。共焦点顕微鏡観察により、どちらの蛍光タンパク質においてもサイトゾルへの導入がほとんど観られなかったことから、Pas配列を付加することとした。PasはFFLIPKGからなる配列で、ペプチドなどの小分子はエンドソームからサイトゾルに拡散できるようになる。その結果、いくつかの組み合わせでサイトゾル内の蛍光が最も高く細胞質内に拡散しているような像が得られた。特に高効率でサイトゾル移行が観察されたのはPas2-r12(FFLIPKGFFLIPKG-r12)であり、KG、EGFPともにHelaとHEK293細胞に導入された。その細胞質内への導入効率は約3割程度であった。CPPとタンパク質の複合体の形成方法は、両者の溶液を混合するのみで可能であった。分子間は化学的な結合で繋がっているわけではなく、恐らくPasの疎水性領域でタンパク質と相互作用しているものと考えられる。かなりの量のタンパク質がCPPと混合することで凝集したことから、複合体の形成効率を上昇させるような条件検討を行った。複合体の形成の際に溶解する緩衝液の組成やインキュベート時間などを検討し、約6割程度の細胞質内にタンパク質が導入されているように観察された。次に、細胞質内に導入されたタンパク質のみを検出する方法であるが、KGとEGFPの再構成系を用いて検出する方法を試みた。EGFPは別々に精製することで凝集することが分かった。現在KGの再構成系を用いて現在リアルタイムイメージングを試みており、概ね当初の計画に沿って順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、サイトゾルに移行したタンパク質の移行メカニズムの解析を進める。更に、CPPまたは導入分子のリアルタイムイメージングより得られた最適条件(CPPと細胞種の組み合わせ、培養条件など)を応用して、ドラッグデリバリーシステムの効果を、以下の様な生細胞における免疫染色法により評価する。一般に、細胞内への抗体導入には細胞膜の透過及び固定処理を行った細胞を用いることから、死細胞についての解析を行う事となる。また、これらの処理を行うことにより、標的タンパク質の局在などが実際とは異なる可能性も否定できない。しかし、生細胞における抗体導入が行えるのであれば、細胞内における局在や機能についての情報がリアルタイムで得られ、刺激による発現量や局在の変化等、より詳細に解析することが可能となる。 1. 特異的抗体の導入による免疫染色 細胞質、細胞骨格、核、ミトコンドリア、小胞体などの細胞小器官に特異的に局在するマーカータンパク質に対してそれぞれのCPPと蛍光ラベルで修飾された抗体を導入してみる。実際に特異的な局在を示し、検出が可能であることを確認する。この際、特異的に局在しないようであれば、CPPのC末端側にそれぞれの小器官への移行シグナルの付加を行い、積極的に局在できるようにする。 2. 細胞の増殖刺激応答によるサイクリンDの発現量と局在変化の検出 細胞周期エンジンの構成因子の一つであるサイクリンDは、増殖因子の添加により発現量が増加する。また、その局在はG1期のみが核であり、その他のステージでは細胞質に存在する。よって、増殖因子を添加することで発現量の増加と、その後のG1からS期へ移行する際の核からサイトゾルへの局在変化を観察する。これらの変化を検出することができるのであれば、CPPによる他の機能分子のデリバリーへの応用が期待できる。従来までの遺伝子レベルで蛍光タグを付加する手法と並び、非常に有用なツールとなり得る。
|