痛みに関連する脳機能イメージング研究や電気刺激や反復経頭蓋磁気刺激法等による痛みの軽減効果の研究は、一次体性感覚野をはじめ様々な領域が痛みの認知に関わることを示しているが、各領域の固有の機能は明らかになっていない。本研究では、温度感覚および痛覚受容における大脳皮質痛覚関連領域の役割を明らかにするために、2頭のニホンザルに熱刺激の温度変化を弁別する課題を訓練し、前頭葉および一次体性感覚野より顔面領域への触覚刺激に応答するニューロンの課題遂行中の活動を記録した。サルの口髭部に設置した熱刺激用プローブより熱刺激を与えた。課題ではサルがボタンを押すとプローブ温度が35℃から45-47℃に上昇する(T1期間)。ボタンを押し続けると温度がさらに0.2-0.8℃上昇し(T2期間)、サルがこの温度変化を検出し3秒以内にボタンを離せば報酬としてジュースが与えられる。訓練完成後、サル大脳皮質より課題遂行中の単一ニューロン活動を記録した。前頭葉においては、一部のニューロンはT1とT2の両方の温度変化に応答したが、多くのニューロンはT1またはT2のどちらか一方の温度変化にのみ応答した。またT2期間のニューロン活動の応答潜時は、サルのボタン離しの反応時間と相関していた。脳組織標本の作製を行い記録部位を決定したところ、熱刺激に応答するニューロンは腹側運動前野に限局して存在していた。これらの結果は腹側運動前野ニューロンの活動が熱刺激弁別課題における微小な温度変化の検出に重要な役割を果たしていることを示唆すると考えた。一次体性感覚野ニューロンの記録実験は現在継続中である。
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