研究実績の概要 |
酸化ストレスは糖尿病やアテローム性動脈硬化を進展させることが分子レベルで明らかになっているが、酸化ストレスと循環器疾患発症リスクとの関連については未だ不明瞭である。 8-ヒドロキシ-2’-デオキシグアノシン(以下8-OHdG)はDNAが酸化障害を受けることで尿中に排泄される物質であり、酸化ストレスのマーカーとして主に患者を対象として広く用いられているが、一般住民を対象とした疫学研究は限られている。そこで本研究は日本人一般住民を対象として、尿中8-OHdG排泄量と循環器疾患発症との関連を明らかにすることを目的とした。 CIRCSコホートにおいて、1996-2005年に循環器健診を受診し、かつ24時間畜尿検査を実施した者のうち心筋梗塞・脳卒中・労作性狭心症既往者を除いた男女3,454人を対象にコホート内症例対照研究の手法を用いた。11.1年(中央値)の追跡期間中に66名の虚血性循環器疾患(脳梗塞、心筋梗塞、労作性狭心症)の発症が認められ、それらと性・年齢・受診年と地域・ベースライン時の喫煙習慣有無をマッチングしたコントロール189名の計255人について、24時間あたりの尿中排泄8-OHdGを測定し条件付ロジスティック回帰分析にて虚血性循環器疾患発症オッズ比を算出した。多変量解析ではBMI、飲酒量、喫煙本数、総コレステロール値(以上全て連続値)、高血圧・糖尿病既往の有無を調整した。 解析の結果、女性では尿中8-OHdG排泄量の1標準偏差増加分のオッズ比が11.0(95%信頼区間:1.6-72.2)であり、量依存的に虚血性循環器疾患発症と正の関連を示したが、男性では有意な関連は認められなかった。この結果より、一般集団において酸化ストレスが虚血性循環器疾患発症に関連している可能性が示唆された。しかし男性においては差が認められなかったことから、酸化ストレスと他のリスク因子との関連などの観点から性差による影響の違いについて今後更なる研究が必要である。
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