研究課題/領域番号 |
25860457
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
山陰 一 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 糖尿病研究部, 研究員 (40598900)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 脂質代謝異常 / 心腎連関 |
研究概要 |
本研究では肥満・メタボリックシンドローム(MetS)に合併する脂質代謝異常の心腎連関進展への影響に関する成績を集積し、心腎連関進展早期予防の為の至適脂質指標・管理目標値と効果的脂質管理法を解明する。初年度申請者は肥満症・糖尿病コホートにて各脂質指標と心血管疾患(CVD)/慢性腎臓病(CKD)進展との関連を検討した。 1、肥満症・糖尿病の多施設共同前向きコホート1334例において、新規酸化LDL・SAA-LDLと腎機能指標・シスタチンC(CysC)がMetSの危険因子重積度と有意な関連性を認め、さらにCKD指標において冠動脈疾患(CHD)予測リスクと最も関係性が認められた指標はeGFRcyscであることを明らかにした(論文投稿中)。更に、縦断解析にて肥満症426例を対象に5年間の追跡完了は332例であり、脳心血管イベント発症は29例(累積発症率8.0%)であった。Cox比例ハザードモデル解析により、脳心血管イベント発症に対して、脂質指標では男性でHDL-Cが、女性でSAA-LDLが、また腎機能指標では女性においてCysCが有意に関連し、心腎連関進展予知指標として脂質指標ではSAA-LDLが、また腎機能指標ではCysCが有用である可能性を認めた(論文作成中、第87回日本内分泌学会学術総会)。 2、脂質異常症を有する肥満症88例を対象に無作為割付にて脂質代謝改善薬・エイコサペンタエン酸(EPA)1.8g/日の3ヶ月間投与(n = 45)によりコントロール群に比べ(n = 43)、炎症指標・高感度CRPと動脈硬化指標・CAVIの有意な低下を認め、特に脂肪酸4分画(EPA、アラキドン酸[AA]、ドコサヘキサエン酸[DHA]、ジホモγリノレン酸[DGLA])中、EPA/AA比の変化量がCAVIの変化量と有意な相関があることを認めた(J Atheroscler Thromb, 21:248-260, 2014)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1、2014年4月時点で肥満症・MetS・糖尿病の多施設共同前向きコホート登録数が1,334例に達し大規模データベース構築に成功している。また、研究計画にあった評価項目の検討も順調である。また、追跡調査においても80%前後の追跡率を維持し、5年追跡症例数も332例に達しており、5年間での脳心血管イベント発症は29例(累積発症率8.0%)確認している。更に、上記コホートを用いて登録時横断解析及び5年間の追跡が完了している症例において縦断的解析を施行しており、多施設共同肥満・糖尿病コホートにおいて、日本人では脂質指標の中でも新規酸化LDLのSAA-LDLが、また腎機能指標としてシスタチンCが心腎連関進展予知指標として有用である可能性を初めて示し、学会への報告も行っている(第87回日本内分泌学会学術総会、論文作成中)。 2、脂質異常症を有する肥満症88例を対象に無作為割付にてEPAの3ヶ月間投与により、炎症指標である高感度CRPと動脈硬化指標であるCAVIの有意な低下を認め、特に脂肪酸分画中EPA/AA比の変化量がCAVIの変化量と有意な相関があることを認め、動脈硬化関連の雑誌に論文として報告している(J Atheroscler Thromb, 21:248-260, 2014)。 3、肥満関連272遺伝子712SNPs遺伝子多型の調査が完了しており、CVD/CKD発症・進展を規定する脂質関連遺伝素因の解明についても解析の準備を整えている。 以上より、平成25年度における研究達成度は「②おおむね順調に進展している。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
1、肥満症・糖尿病多施設共同コホートにおける臨床研究:前年度に引き続き追跡調査(登録6ヶ月, 1~5年後)を行い、下記縦断解析を行う。①体重変化と食事・運動療法による減量治療(肥満症)による体重・脂質代謝指標の変化とCVD/CKDリスクの変化との関連を解析する。②薬物療法併用例では、各生活習慣病薬特に、スタチン、フィブラート、EPA等の高脂血症薬の有無別に脂質関連指標の変化とそのCVD/CKDリスク指標の変化に与える影響を解析する。EPAのみならず、EPA/DHA合剤についても検討する。③サブ解析:健常者・肥満・MetS別にCVD/CKDリスク改善に関連が強い脂質指標を比較する。④調査が完了している肥満関連272遺伝子712SNPs遺伝子多型を用いて、CVD/CKDリスク指標と有意な関連があるSNPsを同定する。更に横断・縦断解析により、CVD/CKD発症・進展を規定する脂質関連遺伝素因を解明する。 2、 基礎研究:1)単球・マクロファージ(Mφ)系細胞などの血管構成細胞を用いた検討:CVD/CKDに関連した脂質分子、酸化LDLやEPA・DHA・AA等各脂肪酸の抗炎症作用を肥満/MetS患者の単球、THP-1細胞などを用い検討する。各脂質分子の炎症惹起・単球Mφ機能等に及ぼす影響とその作用機序をin vitroで検証する。2)腎メサンギウム細胞や腎尿細管上皮細胞に上記にてCVD/CKDに関連した脂質分子、酸化LDLやEPA・DHA・AA等各脂肪酸を添加し、炎症反応・増殖性変化などを検討する。3)肥満モデル動物における検討:肥満・糖尿病モデル(ob/ob, KKAy, 高脂肪食負荷)マウス, 動脈硬化モデル(Apo E KO等)に各脂肪酸を投与し、糖脂質・Mφ浸潤等を脂肪酸別に比較検討する。 以上より、脂質代謝異常の心腎連関進展への作用機序を明らかにし、肥満遺伝素因を踏まえたCVD/CKD発症予防の為の至的脂質指標・目標値など効果的脂質管理法の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度中に実施を予定していた研究計画のうち、一部の生理活性物質の測定が期間内に終了しなかったため、当該計画の実施に必要な経費を次年度使用分とした。 1.消耗品:①ヒト・マウスホルモン測定(ELISAキット代・血液検査外注費):約20万円、②分子生物学関連試薬(MACS/FACSの抗体、PCRのプローブ・キット等):約20万円、③培養関連試薬(ウシ胎仔血清、メディウムと試薬費)(細胞実験):約10万円、④飼育管理費(動物の購入代、管理代、餌代含む)(動物実験):約10万円2.旅費:国内外の各学会での成果発表のための旅費:約20万円3.謝金:研究補助員数名の実験補助代、外国語論文の校閲:約60万円4.その他:印刷費・研究成果投稿料等:約10万円
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