研究実績の概要 |
平成27年度は、“ソウルと日本の都市において黄砂の健康への影響に差異があるのか”についての課題に取り組んだ。ソウルと日本のデータ間で、心疾患や、脳血管疾患などの死因別死亡の定義を ICD-10 に基づき死因を再分類し、解析を実施した。 解析では、黄砂濃度の測定局(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Rangingによる測定)があり、かつ人口がある一定数以上である5地点(ソウル、長崎、松江、大阪、東京)を選出した。それら対象地域において、黄砂の直接的影響に関して相対危険度(relative risks: RRs)を、時系列解析を用いて各都市別に算出し、それら RRs をベイズ解析法を用いて統合し、評価を実施した。結果として、黄砂濃度が上昇すると、全死因 [イベント日のRR=1.003 (95% CI: 1.001-1.005), 1日後の RR=1.001 (95% CI: 1.000-1.003)]と、脳血管疾患[1日後のRR=1.006 (95% CI: 1.000-1.011)]で RRs の上昇が確認された。またそれらリスクは、黄砂の発生源に近いソウルおよび西日本(長崎、松江)で、特に確認された。 この結果について、国際雑誌へ論文として報告を行った(Kashima, Atmos Environ 2016)。日本国内においては、第74回日本公衆衛生学会総会で発表を行い、日本の公衆衛生専門家へ情報発信と議論を行った。また、本研究で得られた成果は、世界の大気汚染研究者へ報告および議論を引き続き行い、本知見をベースにした今後のさらなるアジアにおける越境型大気汚染研究へつなげる予定である。
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