メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus aureus:以下MRSA )は院内感染の主要な菌であり、感染抵抗力が減弱した患者に重篤な感染症を引き起こす。MRSAの伝播形式は接触感染であり、院内で医療従事者の手指や各種医療器材を介して伝播する可能性がある。当院で臨床実習を行う医療系学生は広義の医療従事者として病原菌の保菌者また感染源となるリスクも高いが、その実態は明らかではない。 本研究では、自動細菌タイピング装置であるDiversiLab を用いて、病院内の入院患者から分離されたMRSAと、同時期に臨床実習学生より分離したMRSA についてDNA の型別・分類による比較検討をおこなう。これらの関連性を調べることにより、MRSA の感染・存在様式を解明するとともに院内感染予防対策や学生教育に役立てることを目指した。 当院で臨床実習を行う医学科学生を対象として、平成25年度 106人、平成26年度 119人のMRSA保菌状況の調査をおこなった。臨床実習開始前と開始後6ヵ月の保菌状況を確認したところ、MRSAが分離されたのは2人(0.89%)のみであった。2人ともに臨床実習開始前からの保菌であり、1人は実習開始後6ヵ月の時点でも継続的に保菌していた。タイピング検査では二人の菌株に同一性はなく、また同時期に入院患者から分離されたMRSAとの相同性も低く、医学生と患者間におけるMRSAの伝播は低いものと考えられた。
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