研究課題/領域番号 |
25860482
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
笹原 鉄平 自治医科大学, 医学部, 助教 (30448849)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 芽胞産生菌 / 院内感染 / 病院環境汚染 / 手指衛生 |
研究概要 |
25年度は以下の3つの検討を行った. 1.2013年1月-12月において,ディフィシル菌感染症と診断された患者同士が疫学的に関係あるかを調査し,院内流行の把握を行った.複数病棟において院内伝播と見られる症例が認められたが,大きな流行はなかった. 2.救急救命センター病棟において,ディフィシル菌感染症患者4名を含む20名の患者のベッド周辺・病室の芽胞産生菌の汚染調査を行った.患者全員の周囲環境から検出された芽胞産生菌は,枯草菌とセレウス菌であった.枯草菌が様々な環境表面から検出されるのに対し,セレウス菌は皮膚が多く接触するシーツやベッド柵から検出された.また,セレウス菌が検出される場合,ホットスポットのように菌数がまとまって検出される傾向にあった.ディフィシル菌は,本菌感染症患者のシーツ・ベッド柵から少数検出されたのみで,環境からはほとんど検出されなかった.治療開始後の時間経過と患者周囲のディフィシル菌汚染度には関連が見られなかった.芽胞産生菌の汚染箇所がある程度明らかになった. 3.病院環境汚染の原因となる医療従事者の手指について,勤務後の芽胞産生菌汚染調査を実施し,手指衛生実施状況との関連を検討した.被験者61名中,45名(73.8%)の手指が芽胞産生菌に汚染されていた.枯草菌・セレウス菌・ディフィシル菌に汚染されていた被験者が,それぞれ31名,31名,1名いた.手指汚染芽胞数と,手指消毒回数・最終手指消毒から検査までの時間・最終手洗いから検査までの時間との間に,それぞれ有意な相関は見られなかった.一方,手洗い回数と手指汚染芽胞数との間には弱い負の相関が見られた.さらに,手洗い回数が9時間あたり11回以上の群と10回以下の群に分けて比較した場合,11回以上の群では有意に手指汚染芽胞数が少なかった.芽胞産生菌による手指汚染を防止する具体的な手指衛生方法を提唱する根拠となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
芽胞産生菌の汚染個所について,枯草菌とセレウス菌については,ある程度明らかにできている.ディフィシル菌については,調査対象としている救急救命センター病棟における,2013年のディフィシル菌感染症患者発生が予想より少なかったため,現在のところデータが限られている.このため,この件に関しては継続検討が必要である. 病院環境汚染の大きな原因のひとつである医療従事者の手指について,芽胞産生菌汚染の状況が初めて明らかにされた.また,手指の芽胞産生菌汚染を防止するための有効な手指衛生方法の提唱も可能となった.
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今後の研究の推進方策 |
1.ディフィシル菌の病院環境汚染調査について,調査対象としている救急救命センター病棟におけるディフィシル菌感染症患者発生が予想より少なかったため,現在のところデータが限られている.このため,この件に関してさらに症例を集めて検討を継続する必要がある. 2.芽胞産生菌によって汚染された環境表面に対する,複数の消毒管理方法を比較検討し,芽胞除去効果が高く,費用対効果が優れている病院環境方法を提唱する. 3.現在集積中のディフィシル菌菌株の遺伝子タイピングを実施し,ディフィシル菌感染症患者と病院環境汚染の関係を明らかにし,院内流行防止のための感染制御策を構築する.
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次年度の研究費の使用計画 |
環境調査対象としている救急救命センター病棟において,ディフィシル菌感染症患者の発生が予想よりもかなり少なかったため,ディフィシル菌の菌株収集および環境汚染調査の実施数が計画よりもかなり少なかった.このため,ディフィシル菌に関する検討に必要な経費が予定よりも減った. また,ディフィシル菌の収集菌株の数もまだ不十分であるため,遺伝子解析を実施しておらず,それにかかる経費を使用していない. 次年度も,ディフィシル菌感染症患者周囲の病院環境汚染調査を,予定数に達するまで継続実施する計画であるため,繰越された予算をそれに当てる予定である. また,本年度実施できなかった遺伝子解析を次年度に実施する計画のため,繰越された予算を使用予定である.
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