研究課題/領域番号 |
25860482
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
笹原 鉄平 自治医科大学, 医学部, 助教 (30448849)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 芽胞産生菌 / 病院環境汚染 / 感染制御 |
研究実績の概要 |
26年度は3つの検討を行った。 1. 2014年1-12に月ディフィシル菌感染症患者同士が疫学的に関係あるかを調査し,院内流行の解析を行った.複数病棟で院内伝播とみられる症例が少数認められるのみで,大規模な流行はなかった.また,2012年4月-2015年3月の間に,ディフィシル菌感染症を疑って便検査が提出された症例を調査し,ディフィシル菌が周囲環境を汚染するような患者に特定の因子がないか検討した.276件の検体のうちディフィシル菌が培養陽性となったのは8例で,4例が毒素も陽性だった.毒素のみ陽性の検体が17例あった.培養陽性例では,環境周囲からのディフィシル菌検出が多い可能性が示唆された. 2. 救急救命センター病棟において,ディフィシル菌感染症患者6名を含む18名の患者の病室の芽胞産生菌の汚染調査を行った.最も頻繁に周囲環境から検出された菌は枯草菌とセレウス菌であった.枯草菌の検出場所は様々だったが,セレウス菌はシーツやベッド柵,ドアノブなどから集中して検出された.ディフィシル菌は,ほぼ寝たきりとなって下痢のひどい2名の患者周囲から,多数検出されたが,その他の患者についてはベッド周囲から少数検出されたのみで,環境汚染はほとんど見られなかった.3名のディフィシル菌感染症患者では,周囲環境からディフィシル菌は検出されなかった. 3. 医療従事者71名の手指について,勤務後の芽胞産生菌汚染状況と手指衛生実施状況の関連について,25年度に得られた結果を基に統計的解析を加え,論文作成を行い現在投稿準備中である.石けんを用いた手洗い回数と手指芽胞汚染には有意な負の相関があり(P<0.01,r=-0.803),1時間に2回以上の手洗いを実施している被験者の手指には大きな芽胞汚染はなかった.また,手洗いからの実施時間が経っているほど芽胞汚染が多い傾向にあった(P=0.02,r=0.272).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
病院環境における芽胞産生菌の汚染箇所と患者への影響について,ある程度明らかにできているが,一般化できる結論を得るためにもう少し該当患者数が必要である.また,ディフィシル菌については,患者由来菌株と環境由来菌株の両方についての遺伝子タイピングを行い,両者の関係について明らかにする必要がある. 一方,環境を汚染した芽胞が直接患者へ伝達される経路となる医療従事者の手指については,71名の被験者のデータを統計学的に解析し,芽胞汚染を避けるために必要な手洗い回数を具体的に明らかにすることができ,論文作成を実施できた.
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今後の研究の推進方策 |
1.ディフィシル菌感染症患者の周囲環境芽胞汚染について,さらに症例数を確保して調査を行う. 2.現在集積中のディフィシル菌菌株の遺伝子タイピングを実施し,ディフィシル菌感染症患者と病院環境汚染の関係を明らかにし,院内流行防止のための感染制御策を構築する. 3.便検査でディフィシル菌が培養陽性となる症例において,周囲の芽胞汚染を起こすリスクが高い可能性が示唆されたため,データ対象を病院全体に拡げ,ディフィシル菌が便培養陽性となる患者群における特徴を明らかにし,これらのリスク患者に対するディフィシル菌環境汚染防止策を構築する.
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度において,調査対象となるディフィシル菌感染症患者の発生が予想よりかなり少なく,ディフィシル菌の菌株収集および環境汚染調査の実施数が計画よりも少なくなったため,ディフィシル菌解析に伴う経費が予定より減った. また,予定されているディフィシル菌の集積菌株の遺伝子タイピング解析をまだ実施していないため,それにかかる経費を使用していない.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,ディフィシル菌感染症患者周囲の病院環境調査を,予定数に達するまで継続実施するので,繰越された予算を使用予定である.また,集積した菌株の遺伝子タイピング解析のために予算を使用する予定である.さらに,研究結果についての論文作成にかかる経費を計上する予定である.
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