本研究では、病院環境における芽胞高度汚染の場所と、そのリスク因子を明らかにし、汚染の多い環境を重点的に効果よく芽胞を除去できる環境整備方法を提唱することが可能となった。これにより、病院における芽胞産生菌感染症の予防が可能になるだけでなく、費用対効果の優れた環境整備が期待できる。 具体的には第一に、芽胞産生菌による病院内環境の汚染状況と、汚染リスクの解析が実施された。クロストリジウム・ディフィシル菌感染(CDI)患者のうち35%の患者病室環境がディフィシル菌芽胞に汚染されていたが、検出場所は患者と接触が多い部位に限定され、非感染患者環境からは検出されなかった。ディフィシル菌による環境汚染リスクとしては、患者糞便の本菌培養陽性が挙げられた。PFGE解析では、特定の菌株が長期にわたって病棟内の患者および環境中に蔓延していることが示唆された。一方、枯草菌とセレウス菌については、調査対象となったすべての患者のうち86%の環境から広く頻繁に検出され、患者や医療従事者が接触する場所など、高度汚染されている部位も多く見られた。病院環境の芽胞汚染について、環境消毒方法の違いによる大きな差は見られなかった。医療従事者の手指の芽胞産生菌汚染についても調査を行った。9時間の勤務後の手指には、76.1%の医療従事者の手指において芽胞汚染が見られた(枯草菌:52.1%、セレウス菌:50.7%、ディフィシル菌:1.4%)。手指汚染の程度と、手指洗浄の回数との間に有意な負の相関が見られ、芽胞汚染を防止するために、1時間当たり2回以上の手指洗浄が必要と考えられた。 本研究の結果から、医療従事者は手指衛生においてアルコール消毒だけでなく、洗浄も1時間に2回以上実施すべきこと、患者・医療従事者が接触するベッド周囲の環境表面は、消毒の種類に関係なく、頻回な拭き取りの実施が重要であると提唱したい。
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