研究課題
本研究の目的は、1.ABO遺伝子が近傍遺伝子と協調的に転写される機序の解明、2.ABO遺伝子の発現機序等の特定、3.これらの研究を応用して亜型を含む血液型の正確な遺伝子診断を可能とすること、であった。さらに平成25年度の研究実績により、4.新たに同定された+36.0kb siteの機能解析、が研究目的として追加された。また、平成26年度の研究実施計画としては、上皮系細胞における転写調節領域を検索すること、が挙げられていた。これらの目的及び計画に対し、以下の実績を得た。1.+36.0kb siteのABO遺伝子発現調節への関与は、血球の分化の程度によって働きが異なることが示唆された。即ち、ABO遺伝子は血球の分化に伴って発現量が変化するが、その変化には+36kb siteが関与していることが考えられた。これは、+36.0kb siteは単純なエンハンサーとしてだけでなく、分化の段階によってはサイレンサーのように振る舞うことを示唆している。2.血液型亜型の一つであるA3型において、その発現に影響を与える遺伝子変異を発見した。具体的には、既に赤血球系特異的なエンハンサー領域であることが示されている+5.8kb site内にA3型に特異的な遺伝子変異(一塩基置換)が発見された。3.上皮系細胞において働くエンハンサー領域候補を発見した。この領域が転写調節に与える影響については、現在、実験的検討を行っている最中である。これらの発見及び研究結果により、ABO遺伝子の発現機序の一部を解明し、亜型を含む血液型の遺伝子診断を部分的に可能にすることが出来た。
2: おおむね順調に進展している
血液型亜型であるA3型について新たな知見を得ることが出来、またその結果は血液型の遺伝子診断に応用されうる有意義なものであったため。さらに、新規のエンハンサー領域候補を同定することが出来、今後の輸血・移植医療への応用が期待されるため。ただし、他の遺伝子や細胞分化との関連についての解明は、現在進行中である。
血液型亜型に関しては引き続き、転写調節領域を含む範囲の遺伝子変異を検索する。変異が見つかった場合は、その意義やシグナルを実験的に証明する。ABO遺伝子と他の遺伝子の関わり、細胞分化との関連については、CRISPRシステムによる遺伝子編集技術や薬剤刺激による分化誘導などを通じて、解明を試みる。
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