アルコールは生体に様々な影響をもたらし不整脈の誘発や突然死を引き起こすが、そのメカニズムとして交感神経系やサイトカインを介した細胞内シグナル伝達経路の果たす役割が注目されている。そこで、我々は慢性アルコール投与による心筋細胞の遺伝子発現動態の変化を検討するため、慢性アルコール投与マウスモデルを用いて網羅的な遺伝子発現プロフィールの解析を試みた。アルコール投与群には4%アルコール液体食を、対照群にはコントロール液体食を6週間投与し、アルコール投与群は、エタノール最終投与の1時間後(慢性アルコール投与群)あるいは24時間後(アルコール離脱群)に心臓を摘出した。摘出した心筋を用いて、マイクロアレイ法により網羅的にmRNA発現動態を解析した。慢性アルコール投与群では、有意な発現変動が認められる遺伝子が十分に多く、長期のアルコール投与により心筋細胞はエタノール存在下で強く影響を受けると考えられた。一方、アルコール離脱群では、有意な発現変動を認めた遺伝子の数や変動量は少ないものの、慢性アルコール投与群とは異なる遺伝子で発現に変動が認められ、心筋細胞にエタノール存在下とは異なる影響が働いている可能性が示唆された。また、慢性アルコール投与群ではSTAT Familyを含む12領域、アルコール離脱群ではSTAT3やSTAT6と関連する44領域の転写因子結合領域において、発現変動の大きい遺伝子での存在頻度が高く認められた。したがって、慢性的なアルコール投与により、急性期にはJAK/STAT経路を介した経路のmRNAの転写が促され、離脱期にはSTAT Familyの中でもSTAT3やSTAT6に関連する経路の活性が持続している可能性が示唆された。今後は、遺伝子発現変化の原因となるタンパク質を同定し、より詳細なアルコールによる心筋細胞への影響を検討していきたい。
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