研究課題/領域番号 |
25860499
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
香川 正太 山口大学, 医学部, 助教 (30463201)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Browning / 加齢 / 医食同源 / 糖質制限 / エネルギー代謝 / 2型糖尿病 |
研究実績の概要 |
昨年度までに老化促進マウスSAMP8に牛車腎気丸含有飼料を摂餌したところ、含有しない普通食摂餌で惹起されるサルコペニア(加齢性筋肉減少症)をインスリン・IGF1シグナル伝達を介して改善し、そのメカニズムが2型糖尿病と同様なシグナル伝達であるAktリン酸化、GSK3bリン酸化の維持およびPAS染色で明らかとなったグリコーゲン貯蔵能を保っていたこと、さらにAktリン酸化、FoxO4を介したMuRF1(骨格筋萎縮タンパクの1つ)の発現を低下させた、という結果を見出した。論文はPhytomedicineにAcceptされ、2015年1月号に掲載された。 この結果は、糖代謝において非常に重要な組織である骨格筋のインスリン抵抗性を改善している可能性も示唆され、牛車腎気丸は、加齢に伴う2型糖尿病のインスリン抵抗性を改善する可能性を示唆する重要な知見を得ることができた。 続いて、糖質制限食の長期摂餌および加齢における影響を明らかにする課題を進めた。結果、上述のようにSAMP8は普通食で加齢に伴い耐糖能異常を呈していることが、糖負荷試験で明らかとなり、糖質制限食はその耐糖能異常を改善した。しかしながら、肝グリコーゲン量は著しく低下し、グリコーゲン貯蔵能の低下を呈した。骨格筋では、糖質制限により著しい筋線維の萎縮を認めた。それらの糖代謝、エネルギー代謝機能不全を補うかのように、内臓白色脂肪細胞はUCP1染色陽性、脂肪萎縮をともなった、白色脂肪の褐色化、すなわちBrowningを呈し、予期せぬ発見を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、牛車腎気丸がインスリンシグナル伝達機構を介して、サルコペニアを予防した結果が学術雑誌に掲載され、これは牛車腎気丸という漢方医学によって骨格筋における、加齢に伴うインスリン抵抗性を予防する効果を分子レベルで明らかにできた。 この結果から予想していた通り、老化促進マウスSAMP8は耐糖能異常を来しており、2つ目の課題である糖質制限食において耐糖能を改善させることができたことが計画として順調に進行している理由である。 加えて、SAMP8に糖質制限食を摂餌させると、白色脂肪のBrowningが惹起されることが新規で証明でき、今後の研究がさらに発展していく実験系を見出すことができたことも大きな理由である。
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今後の研究の推進方策 |
近年、白色脂肪の褐色化に伴い、生体における2型糖尿病の改善やエネルギー代謝効率が報告されて来ている。 本研究は東洋医学のカテゴリーで「医食同源」を目指し、健康長寿推進の観点から、牛車腎気丸という「腎虚(加齢の伴う諸疾患)」の一つであるサルコペニア改善を見出した。さらに食事という観点から、医療現場でも容易に用いられる糖質制限食が加齢において、2型糖尿病の改善は見出したものの、生体の各組織では、逆にエネルギーバランスを崩すことも分かった。今後は、このような状態での白色脂肪組織のBrowningの意義、そして、その分子メカニズムの解明や、加齢における糖質制限食がインスリン標的組織(肝、骨格筋)での糖・脂質・エネルギーの各代謝に影響を与える分子の挙動を生化学的に追及していくことで、加齢における2型糖尿病やインスリン抵抗性への糖質制限の有効性と危険性を啓発できるエビデンスを研究の命題としていきたい。
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