研究課題
若手研究(B)
研究代表者らは、C型肝炎ウイルス(HCV)のウイルス蛋白によるIFN-λおよびIFN-β誘導経路の抑制作用の検証とそのメカニズムの解析、 HCV-NS4Bを標的とした抗ウイルス薬の抗ウイルス効果と作用機構の解析を行う事によって、HCVの新規抗ウイルス薬の開発、あるいは抗ウイルス薬の薬理作用解明のための基盤を形成することを目的として研究を行い以下の実績を得た。1. HCVのウイルス蛋白によるIFN-λ誘導経路の抑制機構に関する解析: reporter assayおよびreal time PCRによる遺伝子発現の検討において、IFN-β発現経路に関わる分子として知られるSTINGがIFN-λ発現経路の活性化にも関わる分子であることを明らかにした。ウイルス刺激を模倣したpoly ICでの刺激、およびIFN-λ誘導経路に関わるとされるシグナル分子の発現によりIFN-λ発現が活性化されることが検証された。さらに、ウイルス蛋白の発現プラスミドを用いることにより、活性化されたIFN-λ発現経路がHCVの非構造蛋白であるNS3/4AやNS4Bによって抑制されることが示された(JDDW2013第16回日本肝臓学会大会にて発表)。2. HCV-NS4B蛋白によるIFN-β応答系の抑制機構に関する解析: NS4B蛋白がIFN-β応答系シグナル伝達を阻害する事の検証、そのメカニズムの解析に関して、reporter assay等の系を用いた研究を進行し、結果を解析中である。3. NS4Bを標的とする既知の薬剤の抗ウイルス効果の検証: 抗NS4B薬として作用すると考えられている低分子化合物について、HCVレプリコン発現細胞を用いてその抗ウイルス効果、およびHCVのgenotypeによる抗ウイルス効果の差を検証した。これらの薬剤について、抗ウイルス効果がNS4BのIFN抑制作用を標的としているものかということを含め、そのメカニズムに関する解析を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
1. HCVのウイルス蛋白によるIFN-λ誘導経路の抑制機構に関する解析、に関しては当初の計画通り研究を進めることができ、一定の成果を得ることができた。すなわち、HCV感染時の抗ウイルス応答としてIFN-β誘導と同等あるいはそれ以上に重要であると近年提唱されているIFN-λ発現誘導に、STINGがシグナル分子として作用する事を初めて見出し、さらにIFN-λ発現経路をHCVのウイルス蛋白が抑制する事を明らかにした。以上の実績は、JDDW2013第16回日本肝臓学会大会を含む国内外における複数の学会・研究会等で報告した。2. HCV-NS4B蛋白によるIFN-β応答系の抑制機構に関する解析、に関してはreporter assayの検討から、NS4B蛋白がIFN-β応答系シグナル伝達をも阻害する事を示唆する結果を得ている。詳細な解析を進めることで、HCVの持続感染に関わるウイルス側の要因とそのメカニズムの一端を明らかにしうると予測している。さらに3. NS4Bを標的とする既知の薬剤の抗ウイルス効果の検証に関しては、抗NS4B効果を有するとされる化合物の抗ウイルス効果を検証する事が出来ただけでなく、HCVのgenotypeによる抗ウイルス効果の差を見出した。1,2で明らかとなった、NS4B蛋白によるIFN-λ発現経路およびIFN-β応答経路の抑制作用と、化合物の薬理作用との関連に関して解析準備中であり、新規抗ウイルス薬開発の基盤を形成するという目標を達成するのに必要な研究を行うための成果が、現時点で得られているものと考える。以上のように、研究計画はおおむね順調に進展しているものと思われる。
これまでの検討から、ウイルス蛋白によってIFN-λ発現経路が抑制されることが示唆された。そこで当初の計画通り、前年度行った研究を発展的に実施、継続していく。すなわち、ウイルス蛋白によるIFN-λ発現経路の抑制作用に関して、強制発現およびknock downの系、あるいはmicro arrayによる網羅的解析などの手法を用いてウイルス蛋白、特にNS4B蛋白が標的とする宿主分子を探索する。さらに、探索された分子とウイルス分子との分子間相互作用の解析やそれぞれの分子の局在の検討、また、HCV-JFH1感染培養系や、レプリコンシステムを用いた解析を行うことにより、そのメカニズムの詳細な解析を進めていく予定である。既知の抗NS4B作用を有するとされる化合物に関しては、特に今回抗ウイルス作用が示されたものに関して、その作用がNS4BのIFNシグナル抑制作用を標的としているものかを検証する。さらに、抗NS4B薬の探索・開発、薬理作用の解析にはNS4Bの機能部位の同定が重要であると考えられる。そこで、当初の計画に加えて、NS4BのIFNシグナルの抑制作用の発揮に重要なアミノ酸配列の同定を試みる。具体的にはNS4Bのアミノ酸配列の一部にアラニン置換によってアミノ酸変異を挿入した変異プラスミドを作成し、IFN抑制作用にもたらす影響について解析する。IFNシグナル抑制作用のkeyとなるアミノ酸が同定された場合には、同部位に変異を挿入したJFH1由来全長HCVを作成し細胞株に感染させる事によって、HCV複製増殖能への影響を解析する。また、臨床病態学的解析としてHCV感染患者血清中のウイルスのアミノ酸配列を解析し、そのIFN治療効果とNS4Bのアミノ酸配列との関連についての解析も検討する。
試薬等が計画当初より廉価で購入可能であったため。検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を増量して購入する予定である。
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Hepatology
巻: 57 ページ: 46-58
10.1002/hep.26017.
巻: 57 ページ: 2052-2513
10.1002/hep.26293.